誕生から20年が過ぎたAudi TTの初代モデルに試乗!|バウハウス100周年記念展開催地の東京駅を訪ねる

初代TTのデザインは丸みを帯びつつも幾何学的で、ごくシンプルなグラフィックとボリュームで成立している。

オクタンの過去の記事でも紹介してきたが、ドイツの造形芸術学校 バウハウスの100周年を祝う様々のイベントは2019年いっぱいだけでは終わらない。というのも日本では2019~20年にかけて全国5カ所の公立美術館やギャラリーにおいて、「開校100年 きたれ、バウハウス -造形教育の基礎-」という企画展が巡回しているのだ。

これは「学校としてのバウハウス」に焦点を当て、教育機関としての創立から100年経った今、改めて「バウハウスとは何だったのか?」を根本的にふり返る、野心的なテーマ展示といえる。皮切りとなった新潟、次いで西宮でのプログラムは終了しているが、2月以降に高松、静岡、東京駅への巡回が予定されている。詳細な開催要項やスケジュールについてはこちらのリンクを参考に是非とも訪れてみてほしい。

無駄のないシルエットによる動感と、アーチを重ねることで醸される安定感が、同居するリアビュー。

加えて、アウディ・ジャパンはバウハウス100周年を支えるための活動として、上記の企画展にスポンサー協賛するだけでは終わらなかった。同じく2019年にデビューから2019年で20周年の節目を迎えた初代アウディTTを、日本国内で見事にレストアしたのだ。今回は7月中旬から最後の展会場となる東京駅近辺で、試乗することが叶った。

ほどよいパワーウェイト・レシオと、手の内に収まりやすいコンパクトさが相まって、その走りは軽快そのもの。

久しぶりに対面した8N型のクーペは、登録初年度もきっちり1999年式、シルバーのボディをもつ初代1.8T quattro の6段MT仕様だった。今日のニューモデルを見慣れた目には、そのコンパクトさに驚かされる。車検証を見やれば、全長406×幅176×高さ134㎝という記載で、今の感覚ならほぼBセグメント・ハッチバックといえる縦横のサイズ感で、新鮮ですらある。わずかに低い車高をも含め、現行モデルよりひと回り小さい。

現行の8S型は4200×1830×1370㎜と、ひと回り大きいが、車重は1420㎏とむしろ軽量に仕立てられている。


とはいえ8N型の車両重量は、現行の8S世代が1420㎏であるのに対し、1450㎏と、+30㎏ほど重い。前後重量配分もほぼ61:39と、フロント側にマスが集まるパッケージとなっており、バッテリーやプロペラシャフトの後端側に多板クラッチを配して50:50に近づける努力がなされ、対衝突対策など安全面でも進化を重ねた現行8S型と比べたら、やはり旧さをも感じさせる。それだけ、20年の間に代替わりをするたびに、Audi TTがスポーツカーとして洗練され、クリーン・テクノロジーをも磨きをかけてきたという証でもあるが。


それにしてもスポーツカーとしての考え方、そして素材感が、剥き出しのままドライバー・オリエンテッドにデザインされているところが、初代Audi TTのすぐれて魅力的な点だ。

アルカンターラとレザーの素材ツートンによる、骨太なスポーツカーにふさわしい初代TTのインテリア。

まず適度にタイトで着座位置も低過ぎないコクピットに身を沈めると、ステアリング奥の大小4連メーターの、視認性の妙に気づかされる。左にレブカウンター、右に速度計が大きく配されているのだが、×100のrpm領域を区切る0・10・20・30・40・50・60・70のレタリングが、速度スケール側の10~260㎞/hの書体より僅かに大きく、見やすくなっているのだ。きわめてシンプルだが、スポーツカーとして気の利いたディティールといえる。

またエンジンフードの左右両端が、そのままフロントフェンダーとの境目そしてボディサイドのキャラクターラインを形成するのは、初代Audi TTからのお約束だ。フードを跳ね上げるとフロントフェンダーの接合部が露わになり、フロントセクションの構造そのものを隠さない、そんな造りなのだ。

ドアハンドルの造形は、コンセプトカーの「Audi TT Roadster」の元々の意匠を強く感じさせるもの。
後列シートの間、センタートンネル上のドリンクホルダーまで、かくも美しくデザインされた市販車は例がない。

さらに内側のドアノブや、シフトレバーやシフトブーツを縁取るビス留めのリングなど、手や目が触れるパートの重要な箇所は、すべて削り出したアルミニウムが用いられている。センターコンソール上で未だ1DINサイズのインフォテイメント機器を覆う、TTのロゴ入り開閉式パネルも同じくアルミニウムだ。

以上のように、Audi TTにはスポーツカーとして正統性というか主張、デザインそのものにスポーツカーかくあるべしという理性的な意思や志向が感じられる。「デザイン」という美名の下に、過剰なラインやクロームパーツによる加飾、いってみれば「盛り」の常態化に慣らされた今日の目に、初代Audi TTは登場した当時と同じ様に今なお、ひとつの真理のように明快で、潔く映る。Audi TTにとってデザインとは、美観や小手先の演出ではなく、ひとつのアイデアの顕現だった。そのブレないメッセージと態度こそが、20年以上経った今も、変わらずバウハウス的なのだ。

スポーツカーとしての初代Audi TTの走りは、大袈裟でなく、今なお色褪せていない。225psという最大出力は今でこそ控え目に見えても、リッター100psを優に超えるハイチューンぶりは90年代末にあっては画期的だった。右足に力をこめれば、ターボラグを伴うことなく弾けるような加速が始まる。乗り心地はしなやかだが、2400㎜少々の短いホイールベースゆえ、路面の継ぎ目などで前後に揺すられる場面はあるし、現行型より車重もある。だがマスがドライバーの近くに留まるせいか、回頭性としては軽快さすら感じさせる。ステアリングフィールという点では、昔気質のスポーツカー的な、ずっしりとした手応えが際立っており、コーナリング中にアクセルを開けると、それなりのトルクステアも手元に返ってくるし、交差点ひとつ曲がるにも、昨今の車より明らかに力を使う。

初代Audi TT Coupé 1.8T quattro には直4 DOHC 5バルブ1.8Lターボの225ps仕様がが搭載された。

だからこそ、剛性感たっぷりのシフトゲートを舐めるように、短いストロークのレバーを動かしながら、両手両足でスポーツカーを操るという古典的な楽しみが、ドライバーの側にきっちり残されている。そんな「スポーツカー・ドライビングの伝統的な世界」へと、AWDならではの絶大なスタビリティで下支えしながら、ドライバーを導く点に、バウハウス的な人間中心の思想、そしてアウディが初代Audi TTから提案しているスポーツドライビングの本質が現れているのだろう。

剛性の高い操作系といい、マン-マシン・インターフェイスの純粋さという点で、初代TTは規範といえるスポーツカーだった。


実際、力強いトラクションと、強い自在感を味わえるドライバビリティを両立しながら、所有する喜びをも喚起する造り込みのクオリティ感は、この時代のアウディから顕著になっていく。初代Audi TTは、知的でスタイリッシュという今日に通じるアウディのイメージを牽引しただけでなく、エフィシェンシーとパフォーマンスの中心に人間を置く、アウディの本質の具現化でもあった。建築やデザインの歴史を刷新したバウハウスよろしく、プレミアム・カーの概念を一新したモダン・アウディの、青春期を代表する一台として、初代Audi TTは将来にわたって記憶されるべきモデルなのだ。


文:南陽 一浩 Words:Kazuhiro NANYO
写真:佐藤亮太 Images:Ryota SATO

オクタン日本版編集部

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