フェラーリの中でもとびきり稀少な1台!│創業者エンツォ・フェラーリのビジョンを今に伝える

Photography:Evan Klein

数あるフェラーリの中でも500モンディアルはとびきり稀少なモデルだが、このブルーの車ほど保存状態のよいものはそうあるものではない。誕生から65年を迎えた500モンディアルは、エンツォ・フェラーリの卓越したビジョンを今に伝えている。

これは、あるモデルの物語であると同時に、エンジンの物語でもある。時は1950年代、フェラーリはレーシングカーとロードカーをビジネスの両輪に据え、同時進行で追求していた。今日、フェラーリで最も名高いエンジンといえばV12だが、創業間もない1950年代初頭、巨大なシリンダーを擁する4気筒エンジンをアウレリオ・ランプレディが考案した。洗練されたV12とは対照的に、軽量かつシンプルで、トルクに優れたパワフルなエンジンだった。
 
この4気筒エンジンはフェラーリにF1タイトルをもたらし、レーシングスポーツカーのパワーソースとなり、やがて少量生産の特別なロードカーにも用いられた。そうしたロードカーの中で最も特別な存在が、1954年に誕生した500モンディアルである。モンディアルはイタリア語で"世界"を意味し、F1世界チャンピオンとなったことを記念して命名された。
 
その前に、歴史的背景を振り返っておこう。1950年代初頭は飛躍的な技術革新の時代だった。戦時中に政府の肝いりで行われた調査研究の成果が、ようやく民間人に還元されたのである。製錬技術から燃料、空力、原材料など、幅広い分野において、優れた技術者がかつてないほど輩出され、エンジニアリングやデザインの進歩をもたらす完璧な環境が整った。それが最も顕著だったのが自動車産業、特にレースの世界である。これを支えたのは、戦争を生き延びた人々の情熱と喜びだった。戦時中に何年も温め続けた夢や構想を実現するときが、ついにやって来たのだ。現在ではあらゆる製造分野に規制が存在し、画一化が進んでいるが、1950年代にそうした制限は一切存在しなかった。こうしてレーシングカーの世界は文字通り日進月歩の勢いで進化していった。


 
エンツォ・フェラーリは、レーシングカーの世界で頂点を極めるため、イタリアの小さな農村だったマラネロに新会社を設立。シングルシーターの純粋なレーシングカーを製造する傍ら、レースで勝てるほどの高い性能と、富豪を虜にする華やかさとを兼ね備えた公道走行可能なサラブレッドも生み出した。当時、レーシングカーとロードカーの技術的な違いはわずかだった。また、新しいエンジンやシャシー、技術仕様が次々に生まれていた。レースのレギュレーションも今ほど厳しくはなかったものの、毎年のようにパラメーターが変化した。こうした背景から、フェラーリのような小規模メーカーでは、余剰パーツを別の方法で活用しつつ、従来の手法を刷新していく必要に迫られた。
 

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo. ) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Massimo Delbo Photography:Evan Klein

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