シャンデリアとポルシェを愛する人物│356と毎日共に通勤していた頃の思い出

Porsche AG

南フランス・プロヴァンス地方の日当たりが良い丘のある地域一帯は、地元のフランス人が “天国の光が降り注ぐ場所” と表現するほど美しい地だ。そこに佇む一軒の真っ赤な建物の中には、ポルシェが並んでいる。

ガルガ郊外にある工場跡地を改修したアトリエで、美しいシャンデリア作りに打ち込むのはフラン人アーティスト レジュー・マチューである。彼が手掛けた作品は、フィラデルフィアのオペラ座、パリのオペラハウス、ヴェルサイユ宮殿やラクシュミー・ヴィラース宮殿にも飾られているほど。 

芸術としてのシャンデリアに照らされているのは、自らが所有するポルシェコレクションだ。ひと際目立つオレンジ色の部屋には、1964年ポルシェ 904 カレラ GTS をはじめ、356 スピードスター、911 カレラ RS 2.7、718RSK といったツッフェンハウゼン生まれのスポーツカーが並び、ルイ14世やポンパドゥール夫人が所有していた珠玉のクリスタルとその美しさを競い合っている。



マチューは16歳の時にVWビートルを購入して自らレストアを施した。その後、自身はじめてのポルシェである356Cを手に入れた。フェルディナンド・ポルシェやフェリー・ポルシェなどが手がけたモデルは彼にとって思い入れが深い。「彼らの名前が刻まれているものを見ると、感情が高ぶります」

シャンデリアは現代的な建物よりも城や大聖堂のように歴史のある建造物の方が相応しいと思われがちだが、時代背景が重要なのだとマチューはいう。「シャンデリアは昔から所有者の背景を表現するひとつの美術品であり、単なる照明器具にとどまらない装飾物でした」 

彼の工房にあるショールームの天井には紫に輝くアメジストがはめ込まれた立方体の巨大なシャンデリアが吊り下げられているのだが、この作品はわずか 8灯しか作られていない。数が限られているというエクスクルーシブ性は、ポルシェコレクターのみならず、マチューのクライアントにとっても重要な要素であるためだ。

マチューの父親は第二次世界大戦後、モダンな照明の販売で成功をおさめたがマチューが11歳の時に他界し、会社が継続されることはなかった。マチューは経営学を学び、20歳で父が興した会社『Mathieu Lustrerie』の再興を心に決め、学業の傍ら独学でシャンデリアの設計を学んだ。フランスだけでなくロシアや中東、米国など、顧客が潜在する国々を精力的に訪問して事業を拡大していった。



彼は稼いだお金を会社再建のために投資し続けたが、ひとつだけ他にお金を使う対象があった。19歳の時に購入したポルシェ356スピードスターだ。「356は私にとって心の支えでした。会社設立当初、私は毎日356で通勤していました。その頃は懸命に働いていましたが、利益は出ていませんでした。それでも私は朝から夜まで愛車と過ごす時間を幸せに感じ、とてもリッチな気持ちになれたのです」歴史のあるシャンデリアの多くは戦争で損傷を受け、部品が消失しているものが多いというが、マチューはオリジナルのディテールにこだわりながらそれらを丁寧にレストアして保存していっている。

自身のポルシェコレクションも彼の感情を強く揺り動かすものだという。「私の愛車にはそれぞれに歴史が刻まれていて、どのモデルも特別な存在です。中でも愛着があるのは356スピードスターで、車と人間という仲を超えています。新婚時代に妻と選んだ車で、息子のアルチュールを赤ん坊の頃から乗せていました」と購入当時を振り返る。そのアルチュールも15歳になり、最近では自分でVW ビートルを購入したらしい。血は争えないものだ。

マチューは息子に対して、家業は継がなくとも自分のポルシェコレクションだけは受け継いでくれるよう望んでいるそうだ。

オクタン日本版編集部

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