日産デザインを牽引する人物が語る│ニッサン アリア コンセプトから見る自動車デザインとEVの未来

Nissan

ジオバーニ・アローバは、日産のプログラム・デザイン・ダイレクターとして、先日公開された「ニッサン アリア コンセプト」のデザインを指揮した人物である。同車は、電動化や知能化によって交通事故や排出ガスなどの問題を解決し、あらゆる人にシームレスな移動体験を提供するという日産のビジョン「ニッサン インテリジェント モビリティ」を体現している。ツイン電動モーターと輝かしい受賞歴を持つ運転支援技術を搭載し、力強い加速を実現するこのクロスオーバーEVコンセプトカーは、日産のデザインを完全に一新したのだ。

日産のグローバルデザインセンター内にあるフェアレディZをテーマにしたカフェ「café-Z」で行われたインタビューで、アローバは「ニッサン アリア コンセプト」誕生の経緯や自身のDNAの一部となった日産の存在について語り、夢を実現させたプロセスを明らかにした。




Q:なぜ日産でデザイナーを目指したのですか?
アローバ:2000年にアートセンター・カレッジ・オブ・デザインを卒業後、幸運にもサンディエゴで日産のデザインチームに加入しました。そこはデザイナーが既存のやり方に縛られず、新しいものを生み出すのに理想的な場でした。この時から現在まで、私はブランドのフォルム・ランゲージに影響を与えるチャンスを手にしてきました。今や日産は私の一部であり、私も日産の一部です。私は日産の未来を形作るため、準備を進めています。


Q:「ニッサン アリア コンセプト」を形にする際、最初はどんなアプローチをとりましたか?
アローバ:出発点は、未来をどのように形作るかというビジョンでした。EVの分野での独自の経験や、ニッサン インテリジェント モビリティが誇る自動運転技術やコネクテッドテクノロジーを、クルマのフォルムに融合させたいと考えました。ダイナミックな運転を楽しめるという魅力は、このコンセプトカーに欠かせません。


Q:去る10月、東京モーターショーで「ニッサン アリア コンセプト」のお披露目に立ち会われましたね。自身が手がけた最新の作品が世界デビューを果たすのを目にして、どう感じましたか?
アローバ:プレスカンファレンス冒頭の「日産の未来へようこそ」という言葉はとても印象的で、観客の興奮を感じました。「ニッサン アリア コンセプト」は、日産が持つ技術を一目でわかる形で初めて紹介した車です。非常に誇らしく、そして嬉しく思います。このデザインとスタイルは、きっと成功すると思います。


Q:「ニッサン アリア コンセプト」がもし量産されれば、まずどこにドライブしたいですか?
アローバ:南カリフォルニアで育ったので、サンタバーバラからビッグ・サー、カーメルを通ってモントレーまで、パシフィック・コースト・ハイウェイをドライブしたいですね。太平洋を望みながら西海岸を走るのはきっと素晴らしいでしょうね。長い休みなら、スペインとポルトガルをめぐりたい。でなければ、スコットランド西岸を北上してスカイ島まで行ってみたいです。


Q:ドライブでは、どんな曲(あるいはアルバム)を聞きたいですか?
アローバ:車と同じくらい、音楽も大好きです。そのときの気分次第でどんなジャンルも聞きますが、 今はオーケストラ風のエレクトロニック・ミュージックがお気に入りです。だからキアスモスのアルバム、『キアスモス』をかけるでしょう。あるいはカマシ・ワシントンの『ストリートファイター・マス』とか。アリア コンセプトでのドライブには、ブロック・ベリガンの『ザ・シーニック・ルート』もいいですね。D・J・ロジャーズの『イッツ・グッド・トゥ・ビー・アライブ』も、プレイリストに入っています。私は、レトロな人間ですから。


Q:「ニッサン アリア コンセプト」の実現に、何人のスタッフが関わりましたか?
アローバ:デザイン、開発、商品企画、マーケティングなどの多くの部門が、日産の未来という共通のビジョンのもとで、密接に協力しました。コンセプトをアイデアから現実に変えた数多くのエンジニアの存在は、言うまでもありません。1つのクルマをデザインするのにどれだけのデザイナーが必要か、どれほど幅広い知識が必要かということは、一般的には知られていないと思います。車は数多くの複雑な仕組みによって動いています。同時に、車はオーナーの人生の一部でもあります。その機能に見合った個性を与えることで、オーナーの経験を永く忘れられないものにしていきます。




Q:デザインチームでは、文化やバックグラウンドが異なるメンバーが、制作の過程でどのように協力していますか?
アローバ:世界中から集まったデザインチームは、オーケストラに似ています。あるいは、セッションを楽しむジャズバンドとも言えます。全員がそれぞれ違う楽器を担当して、「音楽」に情熱とインスピレーションを吹き込みます。力を合わせて何重もの音色を紡ぎ出し、交響曲を奏でます。それは「ニッサン アリア コンセプト」でも同じです。グローバルなチームが集まることで、ブランドをめぐるコンセプトがより豊かになり、それが音楽となって耳に届くのです。


Q:自動車・交通以外の分野も、リサーチしていますか? たとえばファッションの未来、建築、玩具、食品などはいかがでしょうか? 異分野から、大きなインスピレーションを受けることはありますか?
アローバ:もちろんです。今おっしゃった分野に加えて、音楽や映画もヒントになります。コンテンツそのものだけでなく、その作品がどのような方法で作曲され、どのように撮影されたのかということからもインスピレーションを受けます。クルマのデザインは、たとえるなら目に見える交響曲を作曲したり、お客さまが旅するシーンを設定したりするようなものなのです。


Q:子どもの頃から、自動車のデザインに興味があったのですか?
アローバ:実は、小さな頃は建築家になりたいと思っていました。今でも建築が好きです。「空間は、芸術の息吹だ」と言われますからね。映画とアニメにもあこがれました。それは今も変わりません。こうしたものが、自然に私のデザインプロセスに影響しています。


Q:子どもの頃に、デザインが好きだったクルマはありますか? 実際の車でも、フィクションでもかまいません。
アローバ:それは難問ですね。 昔も今も、私に刺激をくれる車はたくさんあります。なかでも、イタリア車や、60~70年代のコンセプトは別格です。1970年のランチア・ストラトス・ゼロ、1972年のマセラティ・ブーメラン、官能的な1968年のアルファロメオ・ストラダーレ、1952年のディスコ・ボランテなどです。


Q:近年は、自動車メ-カーが映画作品のため特別にコンセプトカーを開発しています。どの映画の車をデザインしたいですか?
アローバ:ジェームズ ボンドのクルマをデザインしてみたいですね。あるいは、『ブレードランナー』の世界のクルマですね。


Q:これまでに手がけたクルマに、あなたならではの特徴は何かありますか?
アローバ:私はバランスを重視します。ターゲット顧客に合わせたモデルの個性を生み出す上で、バランスはとても大切です。シャープな印象と、運転席や助手席などのインテリアやエクステリアを包み込む、流れるように滑らかな表面のバランスに、こだわっています。「インフィニティ エッセンス コンセプト」「IMs コンセプト」、生産車の「マキシマ」、それにもちろん「ニッサン アリア コンセプト」などを通じて、そうしたバランスを感じてもらえればと思います。


Q:最初はペンと紙でデザインされるそうですね。世界中のデザイナーにアイデアを伝えるため、そうしたアナログな方法と、VRなどの最先端技術をどのように組み合わせていますか?
アローバ:新しいアイデアやコンセプトが頭に浮かんだときは、いつでもスケッチブックとペンを使ってそれを描きとめます。アイデアやコンセプトを人に伝える一番シンプルなツールですからね。
最初の一歩としてアイデアをスケッチする際は、もちろん紙に描いてもいいし、デジタル機器を使ってもかまいません。方向性が決まったら、クレイモデルかデジタルモデル、あるいはその両方を作ります。このモデルを使ってVRでアイデアを確認してから、実物大モデルを作成します。この過程でVRは重要な役割を果たします。VRを使えば、まだ現実には存在しないものを短時間で確認できるからです。


Q:それ以外に、どんなツールがデザインプロセスで重要になりますか?
アローバ:まず何よりも、開かれた心をもち、空想を広げ、新たな発見をし続けることです。スケッチとVRに加えて、クレイモデルを使って形やフォルムを様々に修正できます。デジタル空間だけでなく、クレイモデルを使った模索も大切です。デザインをもとに制作したアニメや映画も、私たちが生み出そうとしている経験を理解し、伝えるのに役立ちます。


Q:自動車のデザインにおいて、自由を求めるアーティストがしてはいけないことは何ですか?
アローバ:スケッチ(イラスト)と、実際に作ろうしている「実物」を分けて考えることです。デザイナーはスケッチやレンダリングにとらわれ、夢中になりがちです。スケッチを上手く形にするのに苦労します。スケッチは、空想を現実にするための方程式を編み出すひとつの手段にすぎません。スケッチは、私たちがアイデアを表現する語彙のひとつですが、決定的な言葉ではありません。


Q:自動車デザインの世界を目指す人に、アドバイスをお願いします。
アローバ:とにかく描いて描いて、描きまくることです。たくさん描いて、デザインの世界の言葉を使いこなせるようになること。デザインという名の交響曲を生み出すには、スケッチをマスターする必要があります。車の歴史や、そのデザインが生まれた理由をまとめ、実際に描いてみましょう。車のトレンドを調べ、モーターショーに足を運び、クルマの仕組みを学びましょう。そして、過去や現在の集合的な意識を知り、未来に向けた次の一歩を踏み出し、ブレイクスルーを起こしましょう。

 

オクタン日本版編集部

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