フェラーリの偉大なるスーパーカー!伝説に残るモデルを一気に試乗比較!

Photography:Matthew Howell


 
グループBの廃止が決まると、エヴォルツィオーネの開発も中止された。その時点で存在したのは3台。うち2台は完全な新車で、1台はGTOからのコンバートだった。のちにフェラーリとつながりの深いミケロットが、特別な顧客のためにさらに3台を製造した。私が試乗するのは、その1台目である。
 
信じられないことに、フェラーリはGTOでラリーに打って出る計画だった。マテラッツィは、3800rpmで最大トルクを発生する出力550bhpのエンジンをラリー用に、ピーキーな650bhpバージョンをレース用に開発していた。グループBの4000ccクラスの最低重量は1100kgだったが、フェラーリには多くのバラストを戦略的に載せる余裕があった。エヴォルツィオーネの乾燥重量はわずか960kgだったのだ。複合素材の使用で元々軽量な標準のGTOから、200kgもの減量に成功したのである。
 
減量の一部は目に見える。フロントウィンドウを除いて窓はすべてプラスチックで、穴も開いている。感触でも分かる。ドアを開けると、自分の力に対してあまりにも軽いので、不器用な超人ハルクになった気分だ。カーボンコンポジット製のボディワークはすべて薄くなり、リアのクラムシェルは熱を逃がすエアベントで埋まり、他のパネルにも空気を取り込むエアスクープやNACAダクトが設けられている。横に並ぶF40と見比べて、ベントやダクトがすべてまったく同じ位置にあることに気づき、はっとした。リアスポイラーの高さや、シャベルのようにわずかに突き出したフロントもそっくりだ。エヴォルツィオーネが、元になった288 GTOよりF40に近いのは間違いない。
 


両サイドが高い小ぶりのシートに身を押し込んでシートベルトを締めると、F40との共通点がさらに見えてきた。ダッシュボードはフェルトで覆われ、フットウェルへと続くカーボンのボックスセクションも同じ位置にある。目の前の不揃いな計器類は、重要な回転数、ブースト、油圧を示し、速度計は単独でダッシュボードの下にぶら下がるように付いている。興奮と共に不安が頭をもたげる。ターボによって最大650bhpものパワーを発揮する1000kgに満たないフェラーリなのである。

“ぐにゃり”とつぶれる黒のスタートボタンを押した瞬間、後方から襲いかかったノイズにも気圧された。打音と轟きと金属音の混ざり合った大音響がむき出しのコクピットを満たす。しかし、これはまだ序の口だった。走り出すと、ストレートカットのギアがたてる凄まじい高音が体を貫く。まるで人体の軟組織を液化する冷戦時代の実験兵器か何かのようだ。
 
残念ながら、走行は撮影した私有地内の狭い道に限られたため、エヴォルツィオーネを完全に解き放つチャンスはなかった。それでも、実力の片鱗を垣間見る瞬間はあった。回転の上昇と共にブーストが高まり、吸気音がただならぬレベルに達すると、爆発的に湧き出したトルクによって、蒸気カタパルトで射出されたかのように突進するのだ。オーバーランで過剰なブーストがシューシューと吐き出されるのには、思わずニヤけてしまった。
 
優れたレーシングドライバーのトニー・ドロンは、数年前にこのエヴォルツィオーネをドライブし、途轍もないパフォーマンスをすべて生かし切るのが難しいと述べている。「突然パワーが噴出するので、ドライバーはEvoと本気で向き合うことを求められる。強く踏み込むタイミングが一瞬でも早ければ、地獄のような状況に陥りかねない…」
 
エヴォルツィオーネではポテンシャルをフルに感じ取ることはできなかったが、私はあとで似たような挑戦をすることとなった。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo. ) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:John Barker 

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