フェラーリが生んだ歴代スーパーカーを一気に試乗│F40 LM、F50、エンツォにラ フェラーリ

Photography:Matthew Howell



F40の後継はどうあるべきか。フェラーリが出した答えは、技術的に大きく進化し、F1生まれのV12エンジンによって“F1の感動”を伝える車だった。こうして生まれたF50は、マラネロ生まれのスーパーカーの中で最も誤解されたモデルでもある。実のところ、オーナーはメディアよりF50を高く評価していたのだが、当初ジャーナリストにはフィオラノを数周することしか許されなかったのが災いした。そして、あの見た目である。後継モデルへの落胆の大きさでは、Eタイプの後継がXJ-Sだったときに勝るとも劣らない。
 
F50は走る矛盾だ。骨格は航空宇宙工学に基づくカーボン製タブ。心臓部は、ターボが
禁止されて1シーズン目の1989年に使われた3.5のリッターF1エンジンから生まれた。ニューマチックバルブと1万4000rpmのレッドラインは引き継いでいないが、4.7リッターに拡大している。エンジンはタブに直接ボルトオンされて、6段トランスアクスルと共に耐荷重構造の一部を成し、それがインボードマウントのサスペンションやリアバンパー、ボディワークを支えている。まさにハードコアだ。ところがスタイリングはソフトで、F40のようなアグレッシブさがなく、滑らかでつるりとした印象。その上、コンバーチブルである。
 


私には合点がいかなかった。ようやく理解できたのは、2004年にステアリングを握った
ときだ。それは『Evo』誌のグループテストで、288 GTO、F40、エンツォを押さえてて、F50はトップに選ばれた。それも全員一致で。私の最も好きなフェラーリのスーパーカーは288 GTOで変わらなかったが、F50の勝利は私にも納得できた。ターボ装着モデルに比べて生々しくダイレクトで、研ぎ澄まされた魅力的な機構とダイナミクスがドライバーに忠実に従い、満足感を味わわせてくれる。もちろんV12は8500rpmまでスリリングに吹け上がるし、ギアシフトとノンアシストのステアリングも申し分ない。
 
あれから15年が経った今、520bhpのインパクトは薄れたが、驚いたのは、あらゆるもの
が“ない”ことだった。インテリアには遮るものがほとんどなく、光沢のあるカーボンファイバーとグレーのアルカンターラが帯状に続く。フロアは円形の突起があるゴムマットだけで、ラジオもなく、窓は巻き上げ式だ。スリムなセンターコンソールには、空調のスイッチ2個とハンドブレーキ、カーボンのノブが付いたオープンゲートのシフトしかない。必要なものはすべて揃い、それ以外は皆無なのである。
 
V12が穏やかなアイドリングで複雑なビートを刻むと、シートも振動する。まるでエン
ジンにボルト付けされているようだが、実質その通りだ。スロットルペダルを軽く踏むと、バイクのエンジンのように回転が跳ね上がって即座に収まり、やはりシートがビビビ…と震えた。ギアのリンケージは4個のジョイントを経て1.8mもあるのに、どのV8モデルより感触が豊かで滑らかに入る。結局はシフトのたびに回転を合わせてしまうのだが、それは必要だからではなく、楽しいからだ。
 
エンジンも秀逸である。V8のような低回転域のトルクはないから、ドライバーが仕事を
してパワーを引き出す必要はあるけれど、その報酬が格別だ。V12は鋭く吹け上がり、スリリングなトップエンドは常軌を逸したレベルである。しかもシャシーの追従性がF40よりはるかに高く、落ち着いているので、パワーをフルに活用できる。アシストがないからステアリングの重さは常に感じるものの、充分扱いやすく、フィールも豊か。ノンアシストのブレーキも同様だ。
 
F50は、飛ばしてもゆっくり走ってもこの上なく楽しい。五感で味わえて、パフォーマ
ンスをフルに生かせる、磨き抜かれたスーパーカーである。凶暴なまでの速さと造りの精巧さでは、総カーボン製でレース生まれのあのV12スーパーカーほどではない。マクラーレンF1は発表時に注目をほぼ独占したが、驚くなかれ、走りの質ではF50がはるかに凌駕しているのだ。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo. ) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:John Barker 

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