レース・オブ・チャンピオンズ│レジェンドが駆ったメルセデス・ベンツに試乗

Photography:Dino Eisele/Mercedes-Benz

この記事は『35年を経たセナ vs ラウダ│メルセデス・ベンツの「ザ・リターンマッチ」』の続きです。

コスワースはメルセデスの4気筒 2.3リッターエンジンをベースとして選定。コスキャスト製法を用いたシリンダーヘッドには2本のオーバーヘッドカムシャフトと16本のバルブが組み込まれた。ラリー・エンジンではドライサンプとクーゲルフィッシャー製燃料噴射装置を採用する計画だったが、最終的にはウェットサンプ方式とボッシュの燃料噴射装置が用いられた。最高出力は185bhp/6200rpmで、最大トルクは174lb-ft/4500rpmを発した。ただし、最高許容回転数は7000rpmとされ、さらなるパワーアップの余地を残していた。実際、ほどなく排気量を2.5リッターとした2.5-16が登場。そのエヴォ・バージョンでは最高出力が232bhpに達し、レース仕様は350bhpを生み出した。

 
全長が短くてバネ定数の大きなコイルスプリング、セルフ・レベリング機構、硬度を上げたブッシュと減衰力を高めたダンパーの組み合わせは、"ベイビー・メルセデス"の自慢でもあるマルチリンク・サスペンションのポテンシャルを余すところなく引き出した。実はこのサスペンションが生み出される過程では、80枚もの設計図が描かれ、月面探査車のようなテスト・リグを使って40種類の試作品がテストされたという。レースカーにはエアロキットを装着してCd値を0.32まで低減。



ステアリング・ギア比は早められるとともに小径なステアリング・ホイールを取り付けてクィックなハンドリングを実現するいっぽう、燃料タンクの容量を55リッターから70リッターに拡大した。さらにオイルクーラーを装着したほか、レーシングパターンでクロスレシオのゲトラグ製5段マニュアル・ギアボックスやLSDを装備し、レースさえ戦うことができる史上に残る名高いスポーツサルーンを作り上げたのである。

 
1983年8月、3台の190コスワースがイタリアのナルドに持ち込まれ、3つの世界記録を樹立する。そのうちのひとつが5万kmを平均速度248km/hで走りきるという挑戦だった。ここでその耐久性を証明した190E 2.3-16は1カ月後のフランクフルト・モーターショーで大観衆の注目を集めることになる。
 
そしてニュルブルクリンクでのレースが執りおこなわれた。その舞台となったコースは、1976年にニキ・ラウダが生死をさまよう大事故を起こしたノルドシュライフェではなく、ほどなくF1ドイツGPが開催されることになる真新しいグランプリ・サーキットだった。ここでレーシングセレブリティによるレースを実施したのだから、完璧なお膳立てだったとしかいいようがない。
 
1984年5月に開催されたレース・オブ・チャンピオンズでは、招待された20名のドライバーがまったく同じ仕様のメルセデス・ベンツ190E 2.3-16を操った。

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Glen Waddington Photography:Dino Eisele/Mercedes-Benz

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