美しき2台のクーペに試乗!│それぞれの確立された世界観と濃厚な魅力に迫る



一方のヴァンテージMTはどうかといえば、そこまでエンジンが濃かったりはしない。もちろん並みのスポーツカーなどとは較べるべくもないし、メルセデスAMGに積まれているM177ユニットと較べて角の丸まった感じのサウンドはアストンっぽくて心地好いけれど、まだ冷静でいられる。



肝心の手動式ギア・ボックスのフィールはどうかといえば、手首の返しひとつでコクコクと決まるタイプではなく、まだあたりがついてないからなのかも知れないけど、作動はやや重めで腕でしっかりとエンゲージしてやる必要があった。左の手前側が1速、その右に2速と3速、そのまた右に4速と5速、さらに右に6速と7速というパターンで、それぞれの左右幅が狭いから、慣れるまでは少し戸惑ったりミスしそうになったりすることもあった。が、それらの位置関係を腕が把握できさえすれば問題なし。太く短く手応えのあるシフト・スティックの何だかとてもアストンマーティンらしい骨太な感覚を、楽しめるようになる。



クラッチ・ペダルは剛性感があるし、ストローク量や反力も適切なら動きも滑らかで、ミートしていく感覚がしっかり伝わってくるから、素晴らしく走らせやすい。2000rpmで625Nmをトルクが豊かなこともあるけれど、さほど気を使わなくともアイドリングでスルッとクラッチを繋いで発進できてしまうほどだ。3つのペダルの配置も理想的でヒール&トーの操作もしやすいが、街中ではブレーキ・ペダルを深く踏み込むことには滅多にならないから省きたい。



そんなときにはシフト・スティックの前にあるボタンをプッシュしておけば自動ブリッピング装置が働いてピシッと回転を合わせてくれるので、ズボラを決め込むことだってできる。MTを選ぶからには全身で操縦する楽しさを堪能したいから使わないという人も少なくないだろうし、僕もそのクチだけど、もちろんサーキットで積極的にそれを活用してヒール&トー抜きにミスなく効率的にブレーキングとシフト・ダウンを決める、というのだって罪じゃない。



ヴァンテージを手動シフトで走らせるというのは新鮮だし、かなり心躍る体験。それは都内の道をゆっくり走ってるだけでも解るほどだった。けれど、もうひとつ解ったことがある。乗り心地がしなやかさを増していたのだ。デビュー当初の現行ヴァンテージは、夢のようなハンドリングを提供してくれる代わりに、それまでのアストンのイメージからするとだいぶ乗り心地が硬め。そこに戸惑いを感じる人も少なくなかった。が、これならすんなり受け入れられるだろう、と思えるレベル。締まってはいるが、硬いと感じるほどじゃない。ここに至るまでに細かく手が入れられてきたことは知っていたけれど、いい具合に煮詰められてきている印象だ。



望外だったその進化は高速道路に入るとさらにハッキリと感じられて、GT性能が高まったことを実感できるのだけど、それでも“やっぱりスポーツカーだな”という感覚が強いのは、どこから踏んでいっても爆ぜるように加速する持ち前の速さに加え、車の動きのひとつひとつが全てに渡ってダイレクトだからだ。それをマニュアル・シフトの操縦感がさらに色濃いモノにしている。



そしてこれまで乗ったことのあるどのヴァンテージよりも高速走行時のステアリングの座りがよく、安定感が高いように感じられたのは、前後に追加された空力パーツのおかげだろう。そもそも1160psのヴァルキリーですらシルエットが崩れることを嫌って、車体下面だけで必要なダウンフォースを稼ぐことを望んだアストンマーティンなのだ。効果のない見てくれだけのエアロ・パーツを装着するなんて、考えられないじゃないか。

文:嶋田 智之 写真:尾形和美 Words:Tomoyuki SHIMADA Photography: Kazumi OGATA

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