美しき2台のクーペに試乗!│それぞれの確立された世界観と濃厚な魅力に迫る



今回はたまたま同じように美しいクーペ2台を同じタイミングで走らせることができたということであって、端から比較を目的にしていたわけじゃない。同じカテゴリーにいながら見てる方向が違ってることは最初から解っていたからだ。それは街中と高速道路を走らせただけでも充分に再確認できたわけだが、ワインディングロードに突入してみると、それぞれの気持ちよさや楽しさの方向性がさらにくっきりと浮き立って嬉しくなった。

グラントゥーリズモMCは、街中で車体の捻れを感じたりして曲がりくねった道では期待は持てないと思わされるのに、その実はほとんど望んだとおりに反応してくれて、素晴らしくしなやかに綺麗に曲がってくれる。熟成が極まったこともあるのだろうが、フットワーク、不思議なことに結構いいのだ。ドライバーを魅了するだけのものをちゃんと持っている。

速いか? まぁ決して遅くはない。ただ、もはや控えめといえるアウトプットに1.8トンを越える車重だ。馬鹿っ速かといえば、今の感覚ではとてもそうはいえない。けれど、それが何だというのだ? アクセル・ペダルの踏み加減に素直に呼応してオクターヴを上げたり下げたりしながら、官能的な声で忘我の境地へと誘ってくるエンジン。それをコーナーの曲率に合わせて唄わせる快感に溺れそうになる頃から、もはやスピードの多寡なんてどうでもよくなってくる。持てる性能の8割まで引き出さなくても、そこはもう立派な桃源なのだ。その世界にいることの幸せ。



ヴァンテージMTは、こうした道では水を得た魚だ。もともと明確な意図を持って設定されたディメンジョンなどから基本特性として抜群に切れ味のいいハンドリングが与えられているクルマだが、そこへきてリアタイヤで曲がって行きやすい機械式LSDまで与えられてるわけだ。もともとコーナリング・スピードが相当に高い車で速いコーナーでアクションを起こすのは怖いから、2速で曲がるタイトなコーナーで余分にアクセルを踏み込んでみると、リア・タイヤがそっとグリップを手放してスライドしていこうとする。

それは少しもトリッキーじゃなくて、動きは掴みやすくて穏やかといえるものだ。即座に動きを抑え元に戻そうと試みればさほど難しくなくそう動いてくれるくらい従順だったりもする。ただしそこから先を深く試したり楽しんだりするためには、サーキットやジムカーナ・コースに行く必要があるだろう。何しろ、ヴァンテージは速い。こうしたところでは速すぎるくらいに。


というか、そこまで持っていこうとしなくても、この車は存分に楽しさと気持ちよさを味わわせてくれる。510psに1.5トン。コーナーからの脱出速度とそこからの伸びの勇ましさは、痛快ということばではたりないレベルのものだ。念じたとおりに曲がってくれる驚異的な素直さとバランスのよさ。フロント・エンジン+後輪駆動のスポーツカーはこうあって欲しいという、理想的といえるレベルのものだ。それをステアリングとシフト・スティック、3つのペダルを駆使し、全身で操縦していく感覚、喜び。それそのものが強烈なエンターテインメントなのだ。それを自分のものにしていくことの幸せ。

2台の美しいファストバック・スタイルのクーペは、どちらも独特の確立された世界観を持ち、テイストは凄まじく濃厚で、痛いくらいの刺激に満ちていた。解っちゃいたけど、僕は見事にマットへと沈められた。最初から勝ち目などなかったのだけれど。

文:嶋田 智之 写真:尾形和美 Words:Tomoyuki SHIMADA Photography: Kazumi OGATA

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