本物を感じさせる風格「セイント ボルボ」 │車内に乗り込んでみた印象は?

Photography: Evan Klein

この記事は“『セイント 天国野郎』でロジャー・ムーアが選んだ相棒 ボルボ P1800の物語 前編"の続きです。

問題の修復はボルボ愛好家であるレストアラー、トニー・デイヴィによってイギリス国内で行われた。完璧を目指すと同時に、できるだけオリジナルの状態を保つように、細心の注意を払ってレストアが行われた。車はすっかり裸にされ、ボディは回転台に取り付けられた。インテリアについては痛んではいないレザーシートを含め、大半は再利用が可能だった。
 
特に興味深いのは新しいMINI LITEのホイールだ。マグネシウム製のオリジナルホイールは劣化していて、公道走行用としては危険だった(クルザステック氏は、そのうち一つをトランクに入れているが…)。1960年代にボルボ1800に取り付けられていたタイプのホイールについて、MINI LITEが製造中止してからかなりの年月が経っていた。しかし、MINI LITEとしてもこのプロジェクトをサポートしたいと考え、新しいアルミ合金のホイールの製作にとりかかることにした。それはオリジナルに忠実に再現され、できるだけ元の姿に見えるようスポークのセンターエッジに加工が施された。
 
レストアが完了すると、このNUV 648Eはアメリカに送られパーティーが催された。それは、カリフォルニアのオレンジ・カウンティで行われていたモーターショーでのボルボ最新の2ドア・コンバーチブル・ハードトップ・クーペを発表する、プレスカンファレンスの最中という、お披露目に相応しい舞台だった。見事にレストアされた「セイント・ボルボ」は、ウィンドウフレーム、ドアハンドル、そしてその他の細かなパーツにまでしっかりとクロームメッキが施されていた。ダッシュトリムはアルミニウム。ドアは軽快な音をたてて閉まる。クルザステックとデイヴィが、レストアに対して正しいアプローチをとったことが証明された。使い込まれた雰囲気と本物を感じさせる風格が、ちょうど良い具合に残されていた。
 
分解修理されたばかりの1780cc OHV 4気筒エンジン(オリジナルではなく、ビルが適合する番号のエンジンを見つけて購入したもの)は、ツインキャブレターを備え、最高出力は108bhpを発揮。私たちがこれまでに聞いたものよりも静かで、そのデュアルクロームエキゾーストチップからやわらかな音を発した。響き渡る音を出すアルファ・ツインカム4気筒ほどレヴはよくないが、MGBやトライアンフTRモーターほどにやぼったいものではない。スロットルを開くと、エキゾーストのくすぶったような音が上昇し、きれいな低音がサイドドラフト・SU・キャブレターから響く、かすかな吸気音といい具合にハーモニーを奏でる。変速機はレバーが短く華奢とも言えるぐらいだが、そのアクションは素早くダイレクトで、ステアリングコラムのストークを通して、オーバードライブが簡単に作動する。どうして、すべてのマニュアルシフトはこういった感じにスムーズにならないのだろうか?


 
グリーンハウスはかなり背が低く平たいが、ガラスが多く使われているため、車内には開放感があり、同時にくつろいだ雰囲気を持っている。ただ、比較的背の高いロジャー・ムーアにとっては、派手に滑り込んだり、降りたりするのは実は厄介なことであったに違いない。
 
シートに腰を下ろすとレッグスペースは十分に広いが、その視界はダッシュボードに取り付けられたバックミラーにより、制限される。そして外付けミラーはなく、右ハンドルの車を左ハンドル用の場所で運転するという概念にも欠けている。ただ、車としては快適で、そのフィーリングとしては、純粋なスポーツカーとコンパクトGTの中間といったところである。近年の車両で言うとアルファGTVほど素早く方向を変えたり、反応することはないが気持ちよく走ってくれる。エンジンが激しく揺れるが、オーバードライブに入ると静かになる。
 
カリフォルニア州サンディエゴにある優雅な5つ星リゾートにある映画用のセットは、素晴らしい車と美しい女性で溢れていた。長身でスレンダー、そして日に焼けた肌の二枚目、36歳、英国生まれの俳優アダム・レイナーは「この古いボルボは、今でもここで最もクールな車です」という。マクラーレンMP4-12Cスパイダー、キャデラックCTS-Vクーペ、メルセデス・ベンツSL550、そして低音で唸るシェルビー・コブラのレプリカなど、その顔ぶれを考えると素晴らしいことだ。私たちは「セイント」リバイバル版の撮影現場にいる。この作品は、メジャーなテレビ局がシリーズとして取り上げてくることを願って、民間から資金提供を受け、テレビ向けに製作されるセールス用パイロット版番組である。

ムーアはショーン・コネリーとジョージ・レーゼンビーの後を引き継いでジェームズ・ボンドを演じることにより、サイモン・テンプラーというテレビの役柄をうまく支えた。ダニエル・クレイグは「007カジノ・ロワイヤル」や「007スカイフォール」での素晴らしいパフォーマンスにより、鋼のようで、現代的なジェームズ・ボンドとして自らを確立したのであった。

編集翻訳:松尾 大 Transcreation: Dai MATSUO 原文翻訳:渡辺 千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation: Chikako WATANABE(CK Transcreations Ltd.) Words: Matt Stone Photography: Evan Klein

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