「101年目のシトロエン試乗記 その2」 C5エアクロスSUV シトロエンによる新しいコンフォートの定義

Photography:Yoshisuke MAYUMI


シトロエンとアヴァンギャルドとハイドロニューマチック


シトロエンというブランドにはアヴァンギャルドなイメージが付いてまわる。アヴァンギャルドとは具体的に、DSやSMの宇宙船のような外観デザインだったり、GS、CX、BXなどのボビンメーターやサテライトスイッチだったり、エッフェル塔の電飾サインやアフリカ大陸横断などの宣伝活動だったり、いろいろな要素に因数分解することができる。そしてハイドロニューマチックに代表される独創的な油圧のメカニズムも、シトロエンのアヴァンギャルドを構成する大きな要素の一つであったことを否定する人はいないだろう。

ハイドロニューマチックのメリットは車両姿勢のコントロールや車高の保持にもあるが、多くの人々から支持されてきた理由は、突き詰めればその独特な乗り心地だ。筆者もBX、エグザンティア、2代目C5など7台のハイドロシトロエンを乗り継いできた。実家に預けたC5には今もたまに乗っている。そして乗るたび、その独特な乗り心地にうっとりとする。そう、似合う言葉は"うっとり"だ。

「良い乗り心地」と書かずに「独特の乗り心地」と書いたのは理由がある。良い乗り心地を一般化すると、おそらく揺れを感じさせないことに行き着くだろう。しかしハイドロニューマチックが人々を魅了するポイントは揺れの収め方の気持ちよさにある。モーターのようにスムーズに回るエンジンも良いが、4000回転から盛り上がるエンジンや高回転域で楽器のようなサウンドを奏でるエンジンの方がより人々を魅了するのと同じだ。ハイドロシトロエンに乗っていると、路面に適度なうねりがあることを期待してしまう。音や振動は削ればいいというわけではないのだ。


ハイドロの名前がついた新しいサスペンションシステム


残念ながら2017年(日本では2015年)に2代目C5の販売は終了した。それはつまり1954年のトラクシオンアヴァン15-SIX Hから始まったハイドロニューマチックの半世紀以上に渡る長い歴史に終止符が打たれたことも意味していた。改良が重ねられたといえ、油圧ポンプによるロスや油圧配管の耐久性などの構造的な問題、システム自体のコスト、そして電動制御への時代の流れを考えると仕方がないことだったのだろう。

しかし、ハイドロニューマチックの終焉とともにシトロエンが乗り心地へのこだわりを捨てたわけではない。それどころか最近になってシトロエンはCitroën Advanced Comfortプログラムとして「ストレスの除去」「より心地よい車内体験」「シームレスな利用」「精神的負担の軽減」の4つの目標を掲げ始めた。コンフォート、つまり快適さこそシトロエンの価値であると宣言したのである。

その一環として本国では2017年のC4カクタスのマイナーチェンジモデルに「プログレッシブ・ハイドローリング・クッション」(PHC)という新しいサスペンションシステムが採用された。そしてPHCは昨年、日本にも導入されたシトロエン初のSUVであるC5エアクロスSUVにも搭載されている。シトロエン自ら「魔法の絨毯の乗り心地を実現する伝説のハイドロニューマチックの現代的解釈」だとアナウンスするPHC、ハイドロという名称がつけられたPHC。期待が高まらないわけがない。


大きく見えるけれど・・・


そんなPHCを搭載したシトロエンC5エアクロスSUVは、新世代デザインのシトロエンの中では構成面に張りがあり、押し出し感の強さが印象的だ。デビューが2017年の上海モーターショーだったことで先入観があるのかもしれないが、特にフロントマスクや前後のフェンダーの丸みを帯びたデザインがその印象を後押しする。

ただし、実際のサイズは全長4500mm、全幅1850mm、全高1710mmとミドルクラスSUVとしてはコンパクトである。特に全幅1850mmは日本の立体駐車場の基準値の一つ、それを超えなかったのは日本マーケットでの商品価値が高い。



ライバルの中でC5エアクロスSUVのサイズに近いのはマツダCX-5(全長 4545mm x 全幅1840mm x 全高 1690mm)やレクサスNX(全長 4640mm x 全幅 1845mm x 全高 1645mm)あたりの国産勢で、輸入車はメルセデス・ベンツGLC(全長 4670-4740mm x 全幅 1890-1930mm x 全高 1600-1645mm)、アウディQ5(全長 4680-4685mm x 全幅 1900mm x 全高 1665mm)、ボルボXC60(全長 4690mm x 全幅 1900mm x 全高 1660mm)と軒並み全幅が1900mm前後に達している。

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