北へ、南へ、シトロエン2CVと30年│第2回:30年前、なぜ2CVを買ったのか その②

30年前、なぜ2CVを買ったのか その①はこちら https://octane.jp/articles/detail/4627

シトロエン2CVを買った1990年という時期は、まさにバブル景気の真っ只中だった。BMW3シリーズが六本木のカローラと呼ばれ、東京の街には高級車や輸入車が溢れていた。もちろん、いまも都内にはメルセデスやBMW、アウディが走り回り、ベントレー、フェラーリ、ランボルギーニに出くわすことも珍しくはない。ただ、当時が今と違うのは「中流の上」が日本人、特に東京周辺に住む人たちの平均的な意識だったことだろう。サラリーマンでも管理職になればマークⅡ 3兄弟あたりに乗っていた時代だ。極端な高級車は少なかったけれど、全体的に「高くて大きな車」が東京の街には多かったのである。


もう一つ、当時の時代背景として週末のレジャー、なかでもデートには車が欠かせなかったことも思い起こしてほしい。意中の女の子を誘うため、そして楽しい時間を過ごすために車は最高の道具だった。愛車を快適な移動空間とするために、シートにセンスの良いクッションを置いたり、嫌味にならない程度に芳香剤を使ってみたり、往復の時間を計算して最初は元気よく、しかし最後はムーディーな雰囲気(笑)となるようカセットテープを編集したことのある人は、筆者だけはあるまい。デートの前の日の夜は助手席に座って、女の子の気持ちで車内をチェックするのが当たり前と筆者は思っていた。

結局のところ、女の子からモテたいという気持ちで、当時の筆者の頭の中は一杯だったということを正直に告白せざるを得ない。女の子にモテるための近道は「高くて大きな車」、できればBMWに乗ることが望ましいが、バブル期とはいえ社会に出たばかりの若者にお金がないのは今も昔も同じだ。

今も昔も同じ、といえば若者の大敵が30〜40代の金回りの良い中年男性であることもそうだろう。当時でいえばBMWやサーブあたりに乗って、趣味はダイビングやヨット、日焼けしてポロシャツの襟を立てた連中だ。腹立たしいことに年上なだけで、同じことを話していても若者より説得力があるし、口説き文句の引き出しも多い。まったくもってお金のない若者男子の天敵であり、まことにケシカラン人々なのである(当時の筆者の勝手な思い込みです)。

そんな仮想敵である中年男性のモテ男に対抗するためには、ハードとソフトの両面からのアプローチが必要だと筆者は考えていた。ダイビングやヨットなどのお金のかかる趣味(=ソフト)を持つことはママならないけれど、横浜や葉山あたりの眺めの良い道と気の利いたお店なら知っている。横浜と三浦半島を巡る素敵なシーサイドドライブというソフトなら、ダイビングやヨットにある程度は対抗できるだろう。自分の魅力という根本的なモンダイを棚上げした、ものすごく単純化した図式だが、そうなると問題はハード、つまり車という結論に行きつくわけだ。

当時、実家には1984年三菱ギャランシグマ(三代目のFFになったモデルのハードトップではなくセダン)があった。当時の三菱は今ほどブランド価値が低くなかったし、SOHCとはいえ可変バルブのシリウスダッシュ3×2が叩き出すグロス200馬力、アウディ100みたいな空力ボディ、シトロエンみたいなサテライトスイッチと1本スポークのステアリングなども気に入っていた。でも、女子受けの点ではBMWにまったく敵わないことも知っていた。予算200万円程度でモテ男が乗るBMWに勝つためには、いわゆる「外し」の車選びが必要だ。様々な角度から検証し、絞り込んだ候補は4台。ユーノスロードスター、ローバーミニ、ルノーキャトル、そしてシトロエン2CVである。やはりNAVIに影響されていたことは否めない。

文・写真:馬弓良輔 Words: Yoshisuke MAYUMI

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