素晴らしいコンディションのフェラーリ│オーナーと主治医が二人三脚で仕上げた328GTB

CARZY

ヒット作となったディーノ206&246GTシリーズ、つまりはマラネロ入門機の後継モデルとして1975年に誕生したのが、フェラーリ 308GTシリーズであった。ディーノがV6だったのに対して、グレードアップした3リットルV8をミドに搭載するこのシリーズは最新のF8シリーズに至るまで途切れることなく進化し続けることとなる。いつの時代も“最も人気の跳ね馬”モデルとして世界の車好きの注目を浴びてきた。

V8モデルに限らずフェラーリの各シリーズは2世代ごとにシャシーやスタイルを完全に変更してきた。逆にいうと、その2世代はスタイリング的にもシャシー設計的にも似通っており(たとえばフロントガラスが同じ)、後発のモデルはいってみればビッグマイナーチェンジ版。

85年までつごう十年間にもわたって生産され、大人気を博した308GTシリーズの後継機として登場した328GTシリーズは308シリーズの最終型=クワトロバルボーレをベースとし、内外装およびパワートレーンをビッグマイナーチェンジしたモデルであったと考えることもできる。

基本的なボディシルエット(フェンダーやルーフ、ウィンドウまわりのデザイン)は308そのままに前後バンパーの意匠をぐっとモダンに誂え、エンジン排気量も3.2リッターまで拡大した。最高出力は270bhpに上がって、ここにきてようやく排ガス規制などで暫く牙を抜かれたV8エンジンが最初期型の308GTBに積まれていた3リットルのキャブレター付きエンジンのパフォーマンスを上回ることができた、のであった。

インテリアもかなりモダン(とはいえ今から見れば立派にクラシックでシンプル&スパルタンな造作だが)になり、洗練度も増している。308GTシリーズと同様に二種類のボディスタイル、つまりベルリネッタのGTBとスパイダー(タルガトップ)のGTSが用意されている。アメリカ市場を中心に当時はGTSが圧倒的な人気を誇っていたため、シリーズ生産台数の約6分の5はGTSボディだったといわれている。その事情は日本市場でも同様だったようで、市中に出回る328GTの多くはタルガトップ仕様のGTSであるというのが現実。それゆえ、人気はベルリネッタ(クーペ)のGTBに集まるようになった。



86年から89年までの4年間生産されたのち、328GTシリーズは348GTシリーズへとバトンタッチする。348GTシリーズからはさらに排気量を上げて3.4リットルとしたV8エンジンがドライバーの背後に、しかも今度は縦置きされるように。328GTシリーズはディーノから続くエンジン横置きの跳ね馬ミドシップシリーズ最終進化系だったというわけだ。

そして現在、国内で販売されている注目のフェラーリ328 GTBをご紹介。生産台数はシリーズを通じて1300台前後。希少性だけで言えばF40に近い。取材車両の年式は89年最終モデルで、走行距離は正真正銘のわずかに1.8万キロ。正規輸入元であるコーンズによって日本のファーストカスタマーにデリバリーされた。



ロッソコルサの外装にめぼしいキズはほとんど見受けられない。一カ所、ノーズに飛び石の補修跡を発見した程度だ。内装はブラックで、当時は外装赤に内装タンの組み合わせと並ぶ定番のコンフィギュレーションであった。

--{内装も素晴らしいコンディション}--

内装のコンディションも外装に負けず上々。なかでもメーターのスケールカラーがくっきりとしたオレンジ色で、当時の雰囲気をよく残している。レザーの状態も良く、インテリアを見ただけで現オーナーの愛情を感じていただけることだろう。

もっとも内外装のコンディションの良さなどは、この個体の魅力を語るにあたって単なる脇役でしかないという事実を最後に伝えておかねばならない。この個体の魅力は何といってもパワートレーンやシャシーの“仕上がり”にこそある。車体をリフトに上げて下回りフロアを撮影したが、見れば分かる通り、隅々まで整備が行き届いている。



実はこの328GTBは、現オーナーが12年ほど前に入手して以来、奈良県のフェラーリ専門ファクトリーであるナカムラエンジニアリングによってずっとメンテナンスされてきた個体。その記録も全て残っているが、新オーナーが驚くほどみっちり手が入っている。「それだけしなければダメな個体だったのか?」と天の邪鬼な人なら思うかも知れないが、それは見当違いというもの。90年代までのフェラーリは、最新モデルとは違って、こまめなメンテナンスを行なって初めて新車時のパフォーマンスを維持することができるという工芸に近い工業製品だったのだから。

試しに乗ってみたところ、驚くほどしっかりとした足回りにはクワンタムが入っている。乗り心地もよく、30年前の車にしてはきびきびとしたハンドリングをみせた。そして何といってもエンジンが素晴らしい。こんなにスムースに回っていただろうか。自分の記憶と照らし合わせてみても、ここまでキレイに回る328のV8を経験したことなどない。工作精度の上がった今だからこそ、設計者の理想に近い回り方をしているのかも知れない。そういう意味では、正に“新車に勝るとも劣らない”性能をみせてくれたのだ。



この頃までの跳ね馬は決してF1のようなエグゾーストサウンドを出さない。意図的に演出された排気音ではなく、精緻なエンジンフィールやメカニカルノイズがシンフォニーを奏でる瞬間が気持ちいい。フェラーリ製エンジンの真の官能性を存分に味わっていただける個体だと断言していいだろう。

おそらく、新車時を知らない328オーナーの9割方がこの素晴らしさを知らないに違いない。これより安く買える328は市中にいくらでもあるが、それを買ってきてたとえ1000万円をかけたとしても、このレベルに追いつくことはないはず。長い年月にわたって注がれた愛情に優るクラシックモデル維持の処方箋は他にないのだから。


車両情報提供:CARZY (文:西川 淳 写真:橋本 玲)
車両販売ページ→ https://www.carzy.net/ja/cars/4ftJ0wwuplpWUPuE1tnt

車両情報提供:CARZY (文:西川 淳 写真:橋本 玲)

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