重厚さと軽快さの見事な両立 ベントレー コンチネンタル GT V8

ベントレーの伝統をもっとも色濃く受け継ぐコンチネンタルGTシリーズにV8モデルが追加された。V8モデルはクーペとコンバーチブルのいずれにも用意されるが、このうちのコンチネンタルGT V8 コンバーチブルにベントレーのクルー本社周辺で試乗するチャンスを得たのでそのインプレッションをお伝えする。

コンチネンタルGTは重厚なグランドツアラーだ。その車重は、オリジナルのW12エンジンを積むコンバーチブルで2414kg 、エンジンがいくぶん軽量なV8 コンバーチブルでも2335kgに達する。
 
もっとも、実車を目の前にすればその車重にも納得がいくだろう。堂々としたボディは2ドアながら全長5メートルに迫る余裕あるもの。軽量化のためボディパネルにはアルミが用いられているが、スーパーフォーミングといって500℃に熱した空気の圧力で成型する特別な技術を採り入れることで、アルミ素材とは思えないシャープなエッジが際立つボディパネルをかたち作っている。


重心が低くなっているように見えるが、先代と全高は変わらない。しかし、今回の新しいデザインではグリルとボンネットが直に接していることや、135mmも前方に移動した前輪などによって一層スポーティなスタイリングになっている。


ベントレーはいつの時代も世界最上級のキャビンを提供してきた。世界中から集められた最高級の素材を用いて、熟練の職人たちが丹精込めて、仕上げていく。コンチネンタルGTを1台作るのには、およそ10頭分の皮革を用いるそうだ。
 
インテリアの華麗さにも目を奪われるはずだ。ドライバーとパッセンジャーをぐるりと取り囲むフェイシアは上下で別々のウッド素材を組み合わせることが可能。ダッシュボードに埋め込まれた大型ディスプレイは電子制御により回転可能で、アナログメーターが3 つ並んだオーセンティックなデザインや、ウッドだけが貼られたシンプルなパネルに切り替えられる。さらに、新型コンチネンタルGTではダイヤモンド・ナーリングと呼ばれる繊細な機械加工をオプションで設定。ドライビング・モード切り替えのダイヤルや"ブルズ・アイ"と呼ばれるエアコン吹き出し口の周辺を、まるでジュエリーのように光り輝かせる細工もオーダーできる。もちろん、最上級のレザーが張られたシートの掛け心地は極上だ。


コンチネンタルGTではオプションとして設定されている、ユニークな手触りと見た目を実現したファセット・ナーリング。最新のソフトウェアを活用することで、人間の手では製作できないカットを作り出すことができる。


コンチネンタルGT V8のレザーシートは20通りに調節可能。シートのカラースプリットはモノトーンの他にも4つのオプションから選択でき、好みに合わせてコントラストステッチやパイピング、ハンドクロスステッチを施すこともできる。
 
走り始めてからもコンチネンタルGT の重厚感を味わえる。どっしりと落ち着いたボディをしなやかな足回りが支えているため、荒れた路面でもドライバーが不快な揺れを意識させられることはない。まるできれいになぎった水面を巨大なクルーザーで流しているときのような、滑らかな乗り心地を堪能できるのだ。

一般的にいって、足回りがソフトなラグジュアリーカーでイギリスのカントリーロードを走るのは骨が折れる作業である。なによりイギリスの田舎道は起伏が激しいうえに細くて曲がりくねっている。しかも、片側一車線の一般道でもその多くが制限速度60mph(=約96km/h)と結構速い。だから、レスポンスがよくて正確なハンドリングが必要になるのだけれど、サスペンションがソフトなラグジュアリーカーで精度の高いハンドリングを期待するのはどだい無理な話である。
 
ところが、ベントレーはなぜか狭いカントリーロードを走っていて楽しい。別に小難しい運転をしなくても、迫り来るコーナーにあわせて右へ、左へと素直にステアリングを切れば、巨大なコンチネンタルGTはまるでなにかに導かれるかのように狭い道を器用に走っていく。知らぬ間にボディが小さくなったような錯覚を覚えるほどだ。 

この重厚さと軽快さの不思議な両立が、ベントレーに脈々と受け継がれてきた伝統といっていいだろう。とりわけ3代目コンチネンタルGTは前輪の位置をぐっと前に押し出すことでエンジンがホイールベース間に収まったフロント・ミドシップのレイアウトを実現。くわえて電子制御式4WD 、3チャンバー式エアサスペンション、デュアル・クラッチ式トランスミッションなどの最新テクノロジーを盛り込むことで、さらに幅広い走りが楽しめるようになった。その俊敏さは、はるかに軽量なスポーツカーに匹敵するといっても構わない。


V8エンジンは、550ps/770Nmという躍動感溢れるパフォーマンスだけでなく、特定の状況で8気筒の内の4気筒を休止することで燃費向上にも貢献している。気筒休止はわずか20ミリ秒でシームレスに行われ、乗り心地を損なうことはない。
 
ところで、試乗車の最大の特徴ともいえるV8エンジンの印象はどうだったのか?単純なパフォーマンスでいえば、V8でもW12に遜色のない速さを示す。絶対的なスペックではW12の635ps/900Nmに対してV8は550ps/770Nmと若干見劣りするものの、路上ではこの程度の差はないも同然。とりわけV8はレスポンスが俊敏なため、ドライバビリティを含めてまったく不満を覚えない。バイブレーションやノイズに関してもW12とV8で大きな差があるとは思わなかった。
 
ただし、回転の高まり方には微妙な違いがある。徹頭徹尾スムーズで、ゆったりと、でも確実に迫り来る大波のような迫力を感じさせるW12に対して、V8はもっとシャープで切れのいい回り方をする。もっとも、この辺はあくまでも好みの範囲だ。


一目でV8モデルであることを示す特徴としては、フロントフェンダーに添えられた小さなV8のバッヂくらい。しかし、これはオーナーの要望によって様々なカスタマイズが可能であることを意味しているのだ。
 
もしもW12とV8で決定的な差があるとすれば、それは足の長さの違いだろう。2 とも燃料タンクのサイズが90リットルで同じため、燃費のいいV8が744kmの巡航距離をカタログ上で示しているのに対して、W12は608kmに留まる。したがって、意外なことにグランドツアラーとしての資質はV8のほうが上とも結論づけられるのである。



ベントレー コンチネンタル GT V8 < >内はコンバーチブル数値
ボディサイズ:4880 mm×1965 mm×1405<1400>mm ホイールベース:2850 mm 
車両重量:2260 kg<2335 kg> エンジン形式:V 型8気筒 ツインターボ 
排気量:3996 cc 駆動方式:アクティブオールホイールドライブ 
変速機:8段 DCT 最高出力:550 ps / 5750 - 6000 rpm 最大トルク:550 ps / 5750 - 6000 rpm
最高速度:318 km/h クーペ本体価格:2498万1000円(税込)<2736万8000円(税込)>

文:大谷達也 写真:ベントレーモーターズ Words:Tatsuya OTANI Photography:Bentley Motors

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