ベントレーの「伝統」と「進化」│本社工場を訪ねて見たクラフツマンシップ


 
現在、ベントレーが生産しているのはミュルザンヌ、コンチネンタルGT、フライングスパー、ベンテイガの4モデル。このうち、コンチネンタルGT、フライングスパー、ベンテイガのホワイト・ボディはドイツにあるフォルクスワーゲン・グループの工場で生産されてクルーにやってくる。ちなみに、これら3モデルを組み立てるためのアッセンブリーラインは2本で、1本はコンチネンタルGTとフライングスパーの混成ライン、もう1本はベンテイガ専用だという。ベンテイガがどれだけ人気かを物語る情報だ。


イングランド北西部チェシャー州クルーにあるベントレーの本社工場。そこではまだ伝統的なハンドメイド工程も正しく継承されている。
 
一方、ご存じのとおりミュルザンヌの生産は終了した。では、これまでの生産設備はどうなるのか? 本社広報に訊ねてみたが、いまはまだ答えられないとの由。ベントレーは今後、EVやハイブリッドなどの電動化を推し進めていくというから、そういったニューモデルのために使われる可能性もなくはない。なお、ベンテイガ・ハイブリッドが一部の地域では発売済みだが、これがなかなかの人気だとか。ぜひ、日本にも導入して欲しいものである。


本革シートの最終工程は、アイロンの手仕上げできれいにシワを取り除き、革の張りを一定にしていく。この製造すら本社工場で行っているあたり、量販モデルでは絶対に考えられないクオリティへのこだわりである。
 
続いて訪ねたのはトリム・ショップ。以前はウッド・ショップと呼ばれていたセクションだが、内装に用いられる素材がウッドだけでなくカーボンなど多種多様になってきたことから、この名前が付けられたという。
 
トリム・ショップでの今回の発見は、ウッド製フェイシアの研磨にロボットが一部導入されたこと。木片の微粒子が飛び散るウッドの研磨工程は、人間にとって過酷な環境のひとつ。これをロボットに置き換えるのは人間重視の発想ともいえる。もっとも、ロボットの身のこなし(?)はまるで熟練した職人のようで、これだったらクオリティが落ちることはないと思えた。
 
最後に訪れたのはレザー・ショップ。ここにも、これまで何度も訪れたが、今回は自動化されたミシンが増えていることに驚かされた。それらはシート表面やヘッドレストに施される刺繍用で、いくつかに別れたシート用のレザーを組み合わせて立体的な形に仕上げるのはいまも熟練工たちの仕事。おそらく、平面に決まったパターンを刺繍するだけなら、機械のほうが速くて正確なのだろう。また、自動化されたミシンが増えたのは、コンチネンタルGTのダイヤモンド・イン・ダイヤモンド、それにフライングスパーのカセドラル・ウィンドウなど、凝った模様のステッチが増えたこととも無関係ではないはずだ。


ベントレー伝統といえばダイヤモンドステッチだが、現行コンチネンタルGTのマリナ―仕様より「ダイヤモンド・イン・ダイヤモンド」のキルティングパターンも選べるようになった。各シートやドアケーシングなど、インテリアのすべての箇所で使用される。
 
それにしても、1台の車を仕上げる手間のかけ方は相変わらずすさまじく、どちらかといえば大量生産に近いプレミアムブランドとは大違い。価格はプレミアムブランドのフラッグシップよりいくぶん高いものの、その差を補ってあまりある価値がベントレーにはあるように思う。

文:大谷達也 写真:ベントレーモーターズ Words:Tatsuya OTANI Photography:Bentley Motors

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