ベントレーの「伝統」と「進化」│本社工場を訪ねて見たクラフツマンシップ

ベントレーの工場にはたくさんの職人が所属している。その生産工程において最も大切にされているのは、伝統のハンドクラフトである。職人が腕を奮う落ち着いた雰囲気のファクトリーに行くと、常に新しい発見もある。2020年3月にクルー工場を訪ねたときのレポートをお届けしよう。

イギリス・クルーにあるベントレー本社工場を訪ねると、ベントレーがなにを大切にしているかがよくわかる。その第一は、伝統である。
 
1938年に建てられたクルー工場は、1946年以降に生産されたすべてのベントレーにとっての生まれ故郷である。1989年にベントレーとロールス・ロイスが分割されたとき、ベントレーの親会社であるフォルクスワーゲン・グループはクルー工場を買収し、ロールス・ロイスを手に入れたBMWグループはグッドウッドに新工場を建設することを決めた。ベントレーは伝統を、ロールス・ロイスは新たな道を歩み始めることを選んだといえるだろう。それぞれのブランドが目指す方向性を示唆する選択だったように思う。
 
その第二は、静かで落ち着いたクルー工場の雰囲気である。通常の自動車工場であれば、巨大な工作機械が発する騒音が響き、作業員が忙しく立ち振る舞っていてもおかしくないが、ベントレーの工場はそれに比べるとはるかに静かで、作業員たちの動きも落ち着いている。自動車を生産しているというよりは、なにかの工芸品を作る工房のようだ。そういえば彼らは車をProduce(生産)するとはいわず、Hand Craft(手作り)すると表現している。


ステアリングホイールの縫い目には、フォークを用いてステッチ箇所を刻んでいく。力のいる作業でもある。オーナー自身が手を触れる場所だけに、グリップの縫い方は実にていねい。
 
そして第三は、クルー工場内に占めるレザー部門とウッド部門の比率である。正確な数値は明らかになっていないものの、自動車本体を組み立てるアセンブリーラインと同じかそれ以上のスペースをレザー部門とウッド部門のために割いているように思える。


インテリア各部の仕上げ工程。オーダーにより縫い糸の色や太さも異なるので、熟練工がしっかりと区別しながら正確な作業を行っている。
 
つまり、伝統を重んじながら、レザーとウッドをふんだんに使った車を手作業に近い工程でていねいに作り上げていく。それがベントレーの車作りと捉えて間違いないだろう。
 
コロナ禍がイギリスを直撃する間際の2020年3月、私は数年ぶりにクルー工場を訪問した。これで3度目か、4度目だろうか。ただし、訪れるたびに何かしら発見がある。それは、歴史ある工場にしては意外なことだが、いままで進化を怠らなかったからこそ長い歴史を築き上げることができたともいえる。今回も新たな発見があった。

文:大谷達也 写真:ベントレーモーターズ Words:Tatsuya OTANI Photography:Bentley Motors

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