© Arnaud CORNILLEAU (ACO)
F1モナコ・グランプリ、インディ500と並び、伝統あふれる世界3大レースのひとつとして挙げられるル・マン24時間耐久レース(正式名称:24 heures du Mans )。フランス西部のル・マン(Le Mans)で行われるこのレースは、サルト・サーキットを含む全長13.629kmにおよぶロングコースであり、コースレイアウトのほとんどは、このレース期間中のみクローズドされる一般公道で構成されるのが特徴である。レースは24時間の周回数で競うことになるが、近代の耐久レースは技術力や情報力の進歩により、スプリント並みのスピードと緻密なレースマネジメントが求められるもの。およそ公道競技としては最も速いレースに数えられる。ドライバーは通常2名~3名が交代で乗り込むが、出走できるドライバーはレースの経験や実績で明確に格付けがなされる。
参加車両はLe Mans Prototype(LMP)と呼ばれるレース専用車両で、大きく4つのカテゴリーに分けられている。
© Michel JAMIN (ACO)
LMP1(ゼッケン赤):自動車メーカー・ワークス系が参加する、独自設計が許される最強クラス。車両の規定はハイブリッドカーを対象としたLMP1-Hybrid(4WD可)と、ハイブリッドカー以外を対象とするLMP1 non Hybrid(4WD不可)に分けられており、ディーゼルエンジンやエネルギー回生システムの使用も認められている。
© Jean-Pierre ESPITALIER (ACO)
LMP2(ゼッケン青):市販のシャーシとエンジンの組み合わせに限定した強豪プライベータークラス。使用できるエンジンは指定されており、シャーシにも制限が多い。全長4750㎜以下(LMP1より100mm長い)とエアロダイナミズムとしては有利だが、最低重量は930㎏とLMP1より100kg思い設定となる。
© Jonathan Biche (ACO)
LMP-GTE Pro(ゼッケン緑):市販GTカーをベースにしたもので、2ドアが条件。4WD、オートマチックやセミオートマチックトランスミッションおよびアクティブサスは禁止されており、ドライバーのテクニックの見せ場が多いカテゴリーだ。
© Arnaud CORNILLEAU (ACO)
LMP-GTE Am(ゼッケン橙):基本的にはLM-GTE Proとレギュレーションは共通となる。スポンサーを求めないジェントルマン・ドライバーも多数出場するクラスであり、アマチュア向けとされているが、実際には相当なレベルのドライバーばかりと言える。前年型以前のマシンでのみ参戦が可能というのもユニーク。
© Frederic GAUDIN (ACO)
さて、第85回となるル・マン24時間耐久レース予選は、現地時間の6月15日22時から行われた。トヨタTS050ハイブリッドを駆る7号車小林可夢偉が、2回目のタイムアタックで3分14秒791を記録。このタイムを破るマシンは現れず、そのままポールポジションを獲得。また予選3回目のアタックで、同じくトヨタ8号車TS050ハイブリッドの中嶋一貴が2番手につき、トヨタがいきなりフロント・ローを独占したのだ。昨年のル・マン、ゴール寸前における中島一貴選手の、「I have No Power !」という悲痛の叫びを覚えている方も多いだろう。トヨタはその雪辱を果たすべく、今年のル・マンに臨んでいたのだ。
© ALEXIS GOURE (ACO)
正に波乱万丈!
現地時間6月17日15時に本戦がスタート。序盤はポールポジションの7号車トヨタTS050ハイブリッドが、有利にレースを展開。それに続いたのが8号車トヨタTS050ハイブリッド。またディフェンディングチャンピオンの1号車ポルシェ919 Hybridが、それに続く形勢となった。だがスタートから約8時間経過したとき、トヨタ8号車にトラブルが発生。フロントモーターのトラブルにより、長くパドックに留まることになってしまった。またスタートから約10時間経過前後に、小林可夢偉がドライブする7号車トヨタTS050ハイブリッドからクラッチトラブルが発生。また、位を走っていた9号車トヨタTS050ハイブリッドも、接触アクシデントによりタイヤがバーストしてリタイアを喫した。これで最上位クラスLMP1-Hは、しばらく1号車のポルシェ919 Hybridがリードすることになる。2号車ポルシェは、スタートから3時間が経過したあたりでフロントアクスルのトラブルが発生。だが約1時間で修理を終わらせ、その後はトラブルもなく順位を上げていった。これでポルシェの2台が圧倒的な優勢を確立したと思われた。しかしゴール4時間前で、首位の1号車ポルシェ919 Hybridが油圧トラブルでリタイア。結果として最上位クラスのLMP1-Hは、全車ともにトラブルを抱えることになった。これにより、なんと今年初参戦のジャッキー・チェンDCレーシングの38号車オレカが総合首位に浮上する想定外のレース展開となる。このジャッキー・チェン・DCレーシングとは、元アウディLMP1ドライバーであったオリバー・ジャービスが選手と俳優のジャッキー・チェンが共同オーナーをつとめるチームで、しかもカテゴリーはLMP2である。
© Solene Bailly (ACO)
さて、終盤の追い上げの結果、チェッカーフラッグを受けたのは、ゴール前、わずか1時間07分でトップを奪還した2号車ポルシェ919 Hybrid(ティモ・ベルンハルト/アール・バンバー/ブレンドン・ハートレー組)。これによりポルシェは、ル・マン24時間レースにおいて、通算19勝目を飾ったことになる。
© DOMINIQUE BREUGNOT/ACO
一方で、LMP-GTE Proの闘い最後まで目が離せなかった。最終ラップまで同一ラップで5台ものマシンがしのぎを削っており、特にクラス1位を走っていた63号車 シボレーコルベット C7.R(ヤン・マグネッセン/アントニオ・グラシア/ジョーダン・タイラー組)と、2位の97号車 アストンマーチン・ヴァンテージ(ダレン・ターナー/ジョナサン・アダム/ダニエル・セッラ組)の戦いは差わずか1秒以内と熾烈。最後は97号車のアストンマーチン・ヴァンテージが優勝。LMP-GTE Amは84号車 フェラーリ488GTE(ロバート・スミス/ウィル・スティーブンス/ドライス・ヴァンソール組)が優勝。フェラーリ勢の強さが輝ったレースであった。
© DOMINIQUE BREUGNOT/ACO
ポルシェの優勝も、トヨタの奮闘も、GTEクラスの盛隆も、すべてが面白かった今年のル・マン。ぜひ現地に観に行かれることをおススメする。
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