トヨタが30年前に夢見た未来を一堂に│トヨタ博物館企画展 「30年前の未来のクルマ」

Photography:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)

会期:2020年6月2日〜10月11日
会場:トヨタ博物館 文化館2階 企画展示室(愛知県長久手市)


COVID-19禍によって暫く休館していたトヨタ博物館が6月2日に開館。同時に「約30年前、トヨタが夢見た未来を一堂に」を掲げた企画展がはじまった。『「コンセプトカー」はその時代のエンジニアの「未来のモビリティへの想い」を表現しています。』を掲げ、1989 年前後に東京モーターショーのトヨタブースで展示されたコンセプトカーを中心に、それをもとに商品化された車を紹介している。



今から30年前の1989年は、“バブル景気”といわれる好景気の頂点にあり、東京モーターショーの会場が、手狭になった晴海の国際見本市会場から、幕張メッセ(日本コンベンションセンター)へ移った最初の年であった。

当時、私が雑誌の編集記者として、真新しい幕張会場に初めて足を踏み入れた時の光景は、今も忘れない衝撃的なものであった。まず、会場が明るく煌びやかで、比較にならないほど広く、初めて日本車と外国車が同じフロアに混合展示され(それまでは別の建物に分割展示)、出品車両が818台(JAMA資料による)にもおよぶという、未経験の規模に驚かされたのである。

広い会場内で多くの注目を浴びていたのが、発売予定車のプロトタイプ(参考出品車)を含む、たくさんの「未来のクルマ」であった。

1989年は東京モーターショーも国際化が進み、カロッツェリア・ピニンファリーナは、フェラーリ・テスタロッサをベースにしたコンセプトカーの“ミトス”を、東京でワールドプレミアしたほどであった。

個人的には、1980年代に入ってから急速に高まりを見せていった東京モーターショーは、その規模、華やかさ、12日間の会期中に192万4200人(JAMA)の来場者を数えたことなどから、東京ショーの“絶頂”であったと思っている。

今回の企画展では、同館が収蔵している1989年に前後の“ショーの華”を展示している。破壊されずに、よく残っていたものだと感心しながら観ていると、現在の車に求められている省エネなどの要素が30年前に織り込まれていたことがわかる。

けっして大規模な展示ではないが、見応えのある企画展だ。取材で訪れたのではなかったが、旧友に再会したかのような気持ちになり、なにか書きたくなり、個人的な感想を交えて、ここにご紹介した。



トヨタ GTV(1987年)
1987年の東京ショーで初公開した、ガスタービンエンジン搭載のパーソナルGTのコンセプトカー。ガスタービンは省エネルギー、小型軽量、低エミッションという特性を持つことから、トヨタは65年に自動車用エンジンとして開発に着手。当初はハイブリッドシステムに用いたが、80年代に入ってから、HVとしてではなく、単体でエンジンとして用いるようになった。150ps、34kgmを発揮した。発表時には、プレス試乗会がおこなわれた。



トヨタ RAV FOUR(1989年)
最近、新型が発売されたRAV4が発売されたのは1994年5月のことだが、1989年東京ショーには、“RAV-FOUR”の名でそのコンセプトカーが公開されていた。樹脂パネルを多用したスタイリングはシティ・オフローダのコンセプトとともに来場者には新鮮なものだった。



トヨタ 4500GT(1989年)
「先進技術と遊び心」を高次元で調和させたスポーツカーと謳う高性能GT。同年のフランクフルトで初公開された。最高速度300km/h以上、0-400mが13秒とすることを目指したとし、4.5リッターのV8、40バルブエンジンが搭載された。CD値は0.29。いわば近代のLFAの遠い祖か? 後方には、その時代のトヨタ博物館女性スタッフのユニフォームが展示されている。



トヨタ MRJ(1995年)
1995年といえば、バブル経済が崩壊して景気は急ブレーキ状態だったが、数は減ったものの、将来へ向けてのコンセプトカーは現れている。ミドシップながら2+2シートとし、電動メタルトップを備えたコンセプトカー。1.76リッターのDOHC20バルブを搭載。1999年発売のMR-Sにつながった。ショー会場で観たときには、このまま発売されてほしいと思った。同年にはプリウスのコンセプトカーも発表されている。



トヨタ セラ(1989年)
1987年の東京モーターショーで公開されたコンセプトカーの“AXV-Ⅱ”は、大胆なバタフライ式ドアで来場者の人目を引いていた。私を含め、「このままでは市販されないだろう」と思った来場者は少なくなかっただろうが、1989年には、それが市販車の参考出品車として公開され、度肝を抜かれた記憶がある。



トヨタ AXV-IV(1991年)
可能な限り超軽量、高効率、リサイクルまでも考慮した4名乗のコミューター。全長3.4m、全幅1.6mのボディは総アルミ製で、CDは0.30。エンジンは2サイクル水冷直4、スーパーチャージャー付き804cc、64ps。FRP製サスペンションアームがスプリングの役目も負う。車重は僅か450kg。まさに現代に求められている省エネ車像のひとつの形だ。



トヨタ AXV-V(1993年)
「ハーモニックエアロサルーン」をコンセプトに据えた“次世代都市間ツアラー”。いかにも空力的を考慮したボディはCD値0.20。広範囲に安全性を高め、ブレーキでは4輪ディスクのほかに、ルーフにはエアブレーキも備えた。エンジンはガソリン直噴のD-4、2リッター型を搭載し、燃費と環境性能の高さを謳っていた。



トヨタ・モーグル(1995年)
森林業に従事する人たちの負担を軽くするために製作したというオフロードカー。トヨタの森林育成活動の一環として開発されたとあった。道なき道どころか、急斜面の“道ではない”場所での使用を想定し、アクティヴ姿勢制御機構を備え、最大500mmの車高調整を可能にしている。1.5リッター 4気筒をミドシップに搭載。残されていてよかったと思った1台。



トヨタ e-com(1997年)
全長2.8m弱の2名乗、電動コミューター。消費税が3%から5%に引き上げられた同年の東京ショーのテーマは「つ・な・ぐ − あなたとくるま。」だった。また、EVコミューターが目につくショーだった。e-comはニッケル水素電池を床下に搭載して、フル充電で約100kmの走行が可能と謳った。


文・写真:伊東和彦/Mobi-curators Labo.

文・写真:伊東和彦/Mobi-curators Labo.

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