「神業」が繰り広げられるピットストップ│6つの工程を解説

レースはドライバーの腕だけで勝敗が決まるわけではない。ピットクルーによるチームワークが勝利を左右する重要な鍵となることも多いのだ。 いかに短時間でドライバーチェンジとタイヤ交換を行い、給油を終えられるか。完璧な連係プレーが試される。 ポルシェ LMP1 チームクルーがピットストップに要する時間はわずか 50秒。ここではその6つの工程を解説しよう。


00.00秒  ピットイン

ピットレーンは雨の影響を受けやすく、突如として滑りやすい危険地帯へ転じるケースもある。プロトタイプカーが定められた場所へ正確にピットインする様は一種の芸術といえる。ただし、その場所に立ち会えるのはロリポップマンだけ。もちろん、マシンに触れることは許されず、ピットイン時に両サイドのレーンが空いていることを最優先して確認しなければならない。他のピットクルーたちはロリポップマンの誘導によりマシンが完全に停車するまでラインの後ろで待機するのだ。


01.00秒  給油

給油中のタイヤ交換は禁じられているため、最大2人の整備士が給油作業を行っている間に、ドライバーはシートベルトを外し、ドアを開けて交代するブレンドン・ハートレイを迎え入れる。もうひとりの整備士がボンネットの上に覆い被さるようにしてフロントガラスから、ワッシャー、 ヘッドライト、テールライト、搭載カメラの清掃を行い、もうひとりが各種データのチェックを行う。


20.00秒 ドライバーチェンジ

ポルシェ 919ハイブリッドのドライバーは3人が務めるが、背が低いドライバーは自身の体にフィットしたバケットシートを持ち込む。彼の降車時にはそれを取り出さなければならないということもある。68.3リッターの燃料タンクを満タンにするのにかかる時間は約 30秒。ル・マンでは 24 時間のレース中、およそ30回の給油が必要となる。


30.00秒 ジャッキアップ

給油が終わり、ポンプがマシンから外された直後、クルーはすぐに空圧チューブをテールに接続し、870kgの軽量プロトタイプマシンをジャッキアップする。マシンが持ち上がると、クルーは元のラインへと再び走って戻って行く。その間にブレンドンはサイドボックスでアシスタントを務めるクルーのひとりにシートベルトの装着を手伝ってもらいながらマシンのドアを閉める。


40.00秒 タイヤ交換

WECではタイヤ交換時のクルー人数は 2名までと限定されている。そのうち、インパクトドライバーを使用できるのは1名と決められている。ひとりが両サイドのタイヤを素早く取り外し、もうひとりのクルーが新しいタイヤを装着するためにリアアクスルを前後に動かす。精確に、スピーディーに作業を行わなければならない。


50.00秒 ピットアウト

すべての作業に要する時間は約50秒間。神業とも思えるピットストップを可能にするため、ヴァイザッハで繰り返し行われる練習回数は年間1053回にもおよぶという。担当クルーにはタイヤを含むホイール 1本あたりの重量約25kgに加えて空圧ホースの重さがのしかかる。ピットストップは肉体的にもハードなのである。ブレンドンがスロットルを開くと、路面がみしみしと音を立てる。フライングスタートには要注意、というのも発進時のタイヤの空転は減点対象になるのだ。

オクタン編集部

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事