これ以上ないスリルが待ち受けていた ?! ル・マンに出場したポルシェ930ターボに試乗

Photography:Jonathan Fleetwood



しかし4段ギアボックスの鈍感さが引き起こすのだろうか、フロントエンドのリフト量はものすごく、これ以上ないスリルを味わわせるのには閉口した。大げさにいえば打ち上げ時のアポロ宇宙船に紐でくくりつけられたかのような感覚だった。その一方で、今さら言うまでもないがターボのヒューンと高鳴るささやき声にも似た音色は一度聞いたら病みつきになってしまうほど魅力に満ちていた。
 
走行距離わずか6万kmに満たないこの車は機械的にもまったく問題がない。ヴィスカウント・コウドレイは、前のオーナーがエンジン、ギアボックス、ブレーキ、オイル回りからフューエルラインに至るまで一切合切の整備をエッゲンバーガーに委託したその几帳面さは敬意に値すると語った。そこが手を加えたものといえば、車のパワーに対して余力を残せるようにブレーキラインを強化したことくらいである。今後のル・マン出場でブレーキが酷使されることに万全を図ったことは疑う余地がない。


 
さらにスイスの厳格な規則のおかげもあって、前オーナーは930ターボの外観にはまったく手を加えていなかった。だからわずか3週間という短期間でボディをグランプリ・ホワイトに再塗装できたうえに、細かい部分までル・マンに出た当時そのままの姿を再現することができたのだ。
 
多くのル・マン・カーでは初めて乗ったときの興奮はやがて冷めてしまうものだが、この車の場合はずっと"24時間体験"に浸れるのがいい。実際どのような使い方にも適応できる。普通に運転すれば子供を乗せて学校の送り迎えのために使うことだってできる。現在は外しているが、パセンジャー側に付けるドアミラーも用意されている。それはかつてル・マンに出たときに使用したヴィタローニのミラーと同じものだ。
 
間違わないでほしいのはこのポルシェ、決しておとなしいわけではなく、走らせればかなり速い。控えめな外観や栄誉を受けたことが多少なりとも今日の走行性能に影響しているのではとの心配は無用だ。ル・マンを戦い終えた1975年7月以降を綴ったこの車の物語を読んでいただければわかるとおり、車の状態はあの時から少しも変わっていないのだ。  

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:James Elliott  Photography:Jonathan Fleetwood

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