徹底的に一台の車を愛し、使い倒した一人のジェントルマンレーサー

Photography:Thomas Macabelli



新たにダグラダ製エグゾーストシステムを装着したフラミニアで、アルトゥノフは再びロードトリップをするようになり、のちにクラシックイベントにも参加した。レース時代をうまく切り抜けたおかげで、彼のフラミニアはほぼオリジナルの仕様を留めている。異なるのはアクリル製ウィンドウだけで、リアはデイトナの前に、サイドはセブリングの前に交換した。シートトリムさえオリジナルのままだ。

走りもいまだに衰えない。足取りは軽く、乗り心地は減衰がよく効き、軽量な構造部にビートの効いたV6の咆哮や轟きが反響する。ステアリングはフィールが豊かで、絶妙の重量配分からくるバランスのよさをすべてのコーナーで実感する。「このペイントはオリジナルの色合いにそっくりだ」とアルトゥノフは証言する。最初はメタリックの明るいブルーグレーで、そのあとは白でサイドシルがブルー、次は赤、そして濃いグレーに変わり、今またこの色に戻った。運転席のすぐ後ろのフロアには穴がある。



40℃にもなるオクラホマの夏の酷暑で、木材とタールのシール部品がダッシュボードから外れ、それをディーラーのメカニックが捨ててしまい、コクピットに雨水が入り込むようになった。「いつか隙間をシールしようとずっと思っていた。それまではと水抜きの穴を開けたのさ。役目を完璧に果たすけれど、高速道路並みの速度では、フロアから水が入ってきて尻が濡れるよ」とアルトゥノフは笑う。

ビル・ウォーナーが創設したアメリアアイランド・コンクールに2007年に出品すると、会長賞を贈られた。アルトゥノフは、オクラホマとフロリダをフラミニアで往復したからだ。この旅でレース時代の思い出がよみがえったと話す。「ああいう時代が終わって久しい。今では、マツダ・ミアータ(ロードスター)を買って、造られたままの姿で大物とヨーロッパでレースをするなど不可能だ。あの頃だって、野球のグローブを買って、ニューヨーク・ヤンキースとプレーするようなものだった」

そう、車だけでなく、おそらくドライバーの心意気も、今とは違ったのだ。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo. ) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA  Words:Massimo Delbò THANKS TO Edoardo Bonanomi of Automobile Tricolore

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