タチアナ・カルデロン選手のスーパーフォーミュラへの挑戦、はじまる

ThreeBond Drago CORSE

「No more CORONA!」。オンラインインタビュー終盤にタチアナ・カルデロンは天を仰ぐようにそう言い放った。世界中の誰もが「まったくだ」と頷くだろう。他人事ではない現状、しかしよりにもよって、一人の女性がこれから世界最高峰のF1を目指すべくさらなる高みを目指して来日し、日本のスーパーフォーミュラに挑もうとしているこのタイミングで新型コロナウイルスのパンデミックが起きるとは・・・。



スーパーフォーミュラ(以下SFと略)はヨーロッパのF2と並ぶ、トップフォーミュラのカテゴリー。このSFをステップにF1を目指す国内外のドライバーが参戦している。先日もここからF1に上がったピエール・ガスリーがF1で初優勝し、話題になったばかりだ。



だから彼女はやって来た。日本のトップフォーミュラであるSFの女性初となるルーキードライバー。先日、ツインリンクもてぎで開幕戦でデビューを果たし、18台中12位でフィニッシュ(完走は14台)。ラスト3ラップのポジション争いは世界中に配信され観戦者を沸かせたことはSNSなどから伝わってきた。果敢なドライビングからは男女の差などみじんも感じられない、まさに鳥肌もののバトルだった。



3月にテストのために初来日を果たすも、新型コロナウイルスによって自宅のあるスペインはロックダウン。約3カ月を一人、トレーニングや料理をしながら過ごしていたという。初めてのレース、初めてのマシン、コースも前日にわずかなテスト時間が得られただけというハンディキャップを背負い戦った初戦。しかしF1を目指すようなドライバーにとってはこの程度の完走は当たり前なのかもしれない。SFで上位争いをするようなドライバーたちのタイム差はわずか1秒内にある。彼女はまだこの圏内にはいない。1秒のなかで競い入賞を果たしてポイントを得る、ルーキーなら誰もが目指すところである。



タチアナ・カルデロン(27歳)は南米コロンビア出身のドライバー。欧米では実はすでに彼女の活躍は知られている。小柄だが軽量級のレスラーのような体躯に、はにかむような童顔系の笑顔が印象的。ヘルメットの奥の鋭い視線や彼女のドライビング、そしてキャリアと眩しい笑顔のギャップがまた世界中のファンを虜にするチャームポイントだろう。



モータースポーツ好きの父と観に行ったF1で当時活躍していた同胞であるファン・パブロ・モントーヤの走りに魅了され、同じ頃、7才年上の姉パウラ(現在はタチアナのマネージャー)やその友人と出かけたカート場での走行体験が9歳のタチアナをモータースポーツのスターティンググリッドに立たせるきっかけとなった。以来、毎日学校が終わるとカート場に通う日々が始まったのだが、両親と学業との両立を約束したタチアナは高校を卒業するまで常に成績はトップクラスだったという。そして大学へ進学するかわりに単身でアメリカに渡りレースを継続、その後ヨーロッパでキャリアを積み上げてきた。昨年はSFと並ぶトップフォーミュラであるF2に参戦、さらにアルファロメオF1チームのテスト&開発ドライバーの資格を得た。ちなみにヨーロッパでF1のテストドライバーとして女性が起用されるのは彼女が初めてではない。厳しい世界ながら、いまモータースポーツ界はドライバーのみならず女性のチャンスと可能性への意識が高まっている。

今シーズンもF1のテストドライバーは継続。新たにリシャール・ミル・レーシングからヨーロピアン・ルマンシリーズと世界三大レースの一つとして知られるル・マン24時間レースにFIAがサポートする女性チームのドライバーとして参戦する。自身にとって初の耐久レースはマシンの性能はSFに比べればドライビングは楽だというが、複数のドライバーと交代しながらのチーム戦にはこれまでと違う学びがあるという。そしてThreeBond Drago CORSEチームから日本のスーパーフォーミュラへの参戦だ。このチームについて「相手を思い、助け合いながら行動する精神が素晴らしい、ファミリーみたい」だと、様々な国でレースを経験してきた彼女は印象を語ってくれた。が、どちらもトップ級のカテゴリーとも言える2つのレースに初挑戦する彼女にとって新型コロナウイルスのパンデミックは不運としか言いようがない。



文:飯田裕子 Words: Yuko IIDA

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