「最初の大いなる愛」を蘇らせる│あるポルシェ911Sと一人の男のストーリー

Porsche AG



彼の新しい “恋人” となるポルシェ911GT3 ツーリングを完成させることは大きなプロジェクトとなり、1年を要した。カルニチェロは北米のポルシェ本拠地があるアトランタに10回以上足を運び、様々な色を比較し、布の材質にいたるまでこだわり抜いた。「私は細かい所まで気になる性質なのです。担当のスタッフに嫌がられているでしょうね」。レザー貼りのセンターコンソールには、初恋のサイドウィンドウに貼ってあったステッカーと同じく “Porsche Markenweltmeister 69、70、71” の文字がエンボス加工されている。カルニチェロにとって、このようなディテールこそにカスタマイズの意味があるなのだ。



「友人から『たかが車じゃないか』といわれる度に『何も分かってないな』と思いました。芸術作品の背景にあるストーリーを読み解くことで、これまでとは全く違う世界が目の前に広がっていくのです。芸術とは、深く理解すればするほど、情熱も大きくなっていくものなのです。ですから、それを実現してくれたポルシェ・エクスクルーシブ・マニュファクチュアのスタッフにはとても感謝しています。新しい世界への扉を次から次へと開いてくれたのですから」。

スタッフと話し合いを重ね、カルニチェロが描いた理想とエンジニアリングを極限まで詰め込んだ911GT3 ツーリングはただ美しいだけではなく、彼がこれまで歩んできた歴史の一部といえる。カルニチェロは、航空工学のエンジニアであった父親から「物の本当の価値を理解したいなら、そのデザインと技術を徹底的に調べなければならない」と教わってきた。「今は何でも大量生産する時代ですから、モノに対して感情を持つという観念自体、理解されないかもしれません。今回、ポルシェ・エクスクルーシブマニュファクチュアと理想のスポーツカーを作り上げる過程で、ハンドクラフトの素晴らしさを改めて認識しました」。



色については悩んだ末に2017年製 911の市販モデルで採用された “アイリッシュグリーン” に近い色にすることにした。「実は一番好きな色は青で、緑はそれほど好きではないのですが、今回のプロジェクトでは自分の固定概念を一旦取り払い、 オープンな姿勢で臨もうと考えていました。ポルシェのスタッフであるトム・ニールのアドバイスを聞いた時は驚きましたが、素直に受け入れることができましたね」。こうして、彼のGT3は特別色のブリティッシュ・レーシンググリーンに決定された。インテリアにはエスプレッソ色のレザーにブラックが差し色として使われ、コントラストを効かせたステッチにはベージュといった具合にカルニチェロが描いていた理想が具現化していった。

そしてその数週間後、ついに完成した夢のGT3 ツーリングは、大西洋を渡ってアトランタへ。「想像していたよりも、ずっと美しい911でした」。自分のポルシェ・コレクションは娘と息子に受け継いでもらいたいと考えているそうだ。

オクタン日本版編集部

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