北へ、南へ、シトロエン2CVと30年│第9回 結構な故障

Photography: Yoshisuke MAYUMI



しかしバックミラーを見ると煙を吹いている様子はない。オイルが焼ける匂いもしないようだ。ただ風切り音でよく聞こえないものの、エンジン音は少しおかしい感じがする。4速ではスピードを維持できず、3速に落とし一番左側の車線に移動する。60km/hくらいなら巡航できそうだとわかり、少しホッとする。

高速道路の路肩で停車なんてゴメンだ。もうすぐ料金所だし、その先の広いところなら安全だ。再び加速できるか自信がなかったので、あまりスピードは落とさずに料金所のゲートを通過しようと思ったら、なんと前を走るセレナが停車してしまった。

ああ、痛恨の見落とし!ここはETCレーンでは無かったのだ。どけ、セレナよ!早く券を取れ、早く!

幸いセレナの手際は良く、2CVはなんとか止まらずにゲートを通過することができた。ただし、スピードを落としたことで明白になったことがある。エンジン音がおかしい。明らかにおかしい。これは間違いなく何かが壊れている。

前橋のホテルに泊まれないじゃないか!じゃらんで見つけた安いけれど良さそうなビジネスホテル。寝具にはテンピュールを使っていると書いてあった。そのホテルに泊まれないことが、なぜかそのときすごく残念に思えた。本当は次の日の取材を懸念するべきなのに。



料金所の先のもっとも安全と思える場所に停めて、なにはともあれボンネットを開けた。エンジンは回っているけれど、その回転は弱々しい。でも煙は出ていないし、カンカンカンとか嫌な音もしていない。

そしてボンネットを固定しようとステーを上げた瞬間、奇跡が起きた。エンジンが急に元気を取り戻したのだ。えっ、と思って手元を見るとステーが左バンクのプラグコードに触れているのが目に映った。プラグコードを揺らしてみるとエンジンの回転が上下する。よく見るとプラグコードが排気のエクスチェンジャーに接触していてそこの被覆が剥がれていた。



これだ!と、うっかりその部分を触ったらピリッと感電した(良い子は軍手をして作業しましょう)。大して痛くはなかったけれど、もう間違いない。絶縁テープで巻いてしまえば何とかなる。いやいや、もっといいものがある。 

新品のプラグコードをトランクに積んであるじゃないか!



7年前にフレンチブルーミーティング(FBM)に行った時、ずいぶん安く永井電子のプラグコードが売っていたので、いつか使う日も来るだろうと買ってあったのだ。

今日がまさにその日だ! 7年前の自分に感謝だ。 




かくして予定よりわずか20分の遅れで、前橋の憧れのテンピュールの宿(?)に到着することができた。古い車を維持するために持つべきものは、やはりプラグコードなのかもしれない。

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