2005年。新作時計の発表イベント「バーゼルワールド」に、衝撃が走った。スイス時計業界の重鎮、ジャン-クロード・ビバー率いる時計ブランド「ウブロ」が、新たな旗艦シリーズとして「ビッグ・バン」を発表したのだ。このモデルは特殊なケース構造や素材使い、野心的なマーケティング手法で爆発的なヒットを記録。しかもその後の10年間で、時計界に対して大きな影響を与えることになる。もしも「ビッグ・バン」が無かったら、時計達はずいぶん退屈だったかもしれない。
1:時計は真面目一辺倒だった
スイスの時計産業は、何よりも歴史と伝統を重んじる。しかし「ビッグ・バン」は違った。スマホ時代の腕時計の存在意義は何か?自問自答から生まれたのが、ケースもダイヤルも針もインデックスも全て真っ黒という"オールブラック" のコンセプトだ。ここには「現代の腕時計はステイタスを楽しむアクセサリーである」という遊び心満点のメッセージが込められている。
2:時計は地味なままだった
ダイヤル色の多くは、白、黒、グレー。さらにケースの色はシルバー系かゴールド系のみ。しかし「ビッグ・バン」では、ブルーやレッド、あるいはカモフラ柄など、様々なバリエーションを用意した。おまけにストラップにも様々な素材や柄を用意し、腕時計を華やかなアクセサリーへと昇華させた。もはやシャツの袖口に隠すのではなく、見せびらかす対象となったのだ。
3:ケースはシンプルだった
時計ケースの目的は、繊細なムーブメントを、衝撃や水分、埃から守ること。円柱型の金属塊を切削して強固に仕上げるが、デザインは単調になってしまう。そこで「ビッグ・バン」では、ムーブメントをインナーケースに収め、上下からアウターケースでサンドイッチした。こうすれば、ケース素材で遊んでも、強固さは失われない。優れた設計思想が、表現力を向上させるのだ。
4:素材は単一だった
ケースを強固に作るなら、単一素材の方が有益。素材ごとに強度が異なると、そこが弱点となってしまうからだ。しかし「ビッグ・バン」が採用するインナーケース構造であれば、外装の素材に何を使っても、インナーケースの気密性を保つことができる。加工性の悪い素材や高価な素材も採用できるようになり、ジルコニウムやキングゴールドなどの新しい素材が導入された。
5:雑多なデザインが溢れていた
多くのブランドでは、シリーズごとに丸型や角型など、基本デザインが異なる。しかしウブロの場合は、あえて"単一デザイン" を採用している。「ビッグ・バン」のデザインコンセプトを軸にしながら、バリエーション豊かなファミリーを加えるのだ。こうすることで、デザインとブランドのイメージを一本化させ、知名度を高めることに成功した。
6:マーケティングは単調だった
時計ブランドでは、ブランド認知を高めるために、スポーツイベントをサポートする。しかしそのほとんどは、時計購入者が好む、ヨットやゴルフ、F1などの富裕層向けのスポーツに限られていた。しかしウブロでは、庶民のスポーツとされるサッカーに注目。サッカーファンを"未来の顧客"と定義し、ブランドの認知度を高める戦略を進めた。それが現在の名声に繋がっている。
7:時計界は子供たちをサポートできなかった
ウブロでは、著名人をアンバサダーに起用する際に、必ず子供のためのチャリティイベントを開催する。そもそもビバー自身がチャリティ活動に熱心な篤志家なのだが、そこに著名人を巻き込むことで、大きな運動にするのが目的だ。ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手とのイベントでは、NPO法人「リビング ドリームス」への寄付を行い、ニュースにもなった。
8:会社のカオが見えなかった
時計ブランドでは、"製品が主役である"という考え方が大きかった。しかし「ビッグ・バン」の様な嗜好性の高いアクセサリーの場合は、作り手も重要。そこでビバーは積極的にメディアに登場し、時計のコンセプトを語った。そうすることで時計の思想が伝わりやすくなるし、ウブロのイメージも明確になる。製品とビバーの両方が、ブランド力を高める強みとなったのだ。
ウブロはフェラーリのオフィシャルパートナーとしても知られている。フェラーリの70周年となる今年は、特別な限定モデルも発表されたようだ。詳しくはウブロ公式ページをご確認いただきたい。
原文:篠田哲生 再編集:オクタン日本版編集部
2024.03.29
ランボルギーニ、その60年はV12と共にあり|60 Years of ...
ランボルギーニの起源にまつわる物語はよく知られている。イタリアン・エキゾティックの世界で新参者のフェルッチョが注目を集めるためには、フェラーリに匹敵するエンジンを持たねばならなかった。そこで彼は世界最 ...
2024.03.26
フェラーリのあるライフスタイルのために|Nicole Competiz ...
2024年2月にオープンした「Nicole Competizione プレオウンドショールーム & サービスセンター」は、総床面積4191㎡という広い建物に20台前後の認定中古車とレーシングフ ...
2024.03.27
クロノグラフを発明した天才、『ルイ・モネ』の時計|Louis Moin ...
自動車の歴史はスピードというもっともわかりやすい性能を競う歴史であり、そのスピードを数値化する計測の歴史でもある。その計測において、クロノグラフという機構がもたらした功績は計り知れないが、意外やルイ・ ...
2024.03.20
DSをキャンバスに!? 子どもも喜ぶ「ヴァンセンヌ旧車会2024年3月 ...
パリの東の要、ヴァンセンヌ城。その前の広場で毎月開かれるヴァンセンヌ旧車会定例ミーティング。今月3月は第二週日曜日に集まった。本来は第一日曜日だが、先週はパリ セミ マラソンが開催されそのコースの一部 ...
2024.03.18
連載:アナログ時代のクルマたち|Vol.22 ポルシェ908シリーズ
1968年にFIAはグループ6のスポーツカープロトタイプカテゴリーのレギュレーションを変更し、最大排気量を3リッターに定めた。この結果ポルシェはレギュレーション一杯の3リッターエンジンを開発することに ...
2024.03.22
ポルシェ新型パナメーラ海外試乗記|未体験の乗り味を実現した、驚きのサス ...
ポルシェの2023年のグローバル販売台数は32万221台と過去最高を記録している(ちなみに国内の新規登録台数も初の8000台超え)。もっとも売れているのがカイエン、続いてマカン。そして911、タイカン ...
2024.02.22
【追悼】マルチェロ・ガンディーニが若者に伝えたい大切なメッセージ|トリ ...
人生の恩師 マルチェロ・ガンディーニを偲んで…世界中のクルマ好きを魅了した天才デザイナーが2024年3月13日、永眠した。去る1月12日、トリノ工科大がマルチェロ・ガンディーニに機械工学 ...