50ノットオーバーのゴージャス艇 OTAM MILLENNIUM 80HT Mr.BROWN

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そのボートはパルピットを持たないロングノーズショートデッキのオフショアレーサーフォルムのクーペスタイルで、圧倒的な存在感を顕にしている。半月形のサイドウィンドウ、長くコクピットの頭上に伸びたルーフエンド、3連のスクエアなエアインテーク。スパルタンな美学が隠れ棲む。ハルはマッドブラックに近いミッドナイトブルー、ボンネットとデッキは滑りを感じさせるエボニーホワイト、そしてパイロットハウスのマッドグリーンの塗装がいっそうハイテックな印象を際立たせている。この船こそ進水したばかりのOTAM MILLENNIUM80HT Mr.BROWN。OTAMのフラッグシップ艇だ。

ハルデザインはイタリアパワーボート界のドン、Fabio Buzzi率いるFB Design。52のワールドオフショアチャンプ、22のヨーロッパオフショアチャンプ、40のワールドスピードチャンプの肩書を持つレーサーの設計である。2012年ニューヨークーバミューダレースでスピードレコードをたたき出している現役73歳。もうひとりはAlberto Mancini率いるAMyacht desine、OvermarineのMANGSTAのデザインを担当する鬼才もイクステリア・デアインに関わっている。

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OTAMは、かつてのイタリア海洋国家のひとつジェノバ近郊で1954年7月19日に誕生した。4人の男たちのカンティエリ、Organizzazione、Tigullio、 Assistenza、 Motoscafiの頭文字からO.T.A.Mと名付けられた。

O.T.A.Mはカルロ・リーバ全盛期のリーバラマやオリンピア等世界のセレブリティ御用達のRIVAボートセンターとして成功を収める。80年代はマイアミパワーボートレース界の覇者ドンアロノーのハルを継承するマイアミのマグナムマリンとコラボレーションを経験し、25艇を地中海マーケット向けにセットアップして送り出した。90年代は自身の45と55を建造、2006年にはジェノバ国際空港の近くで新しいボートヤードを新設。近年はスーパースポーツボートMillenniumレンジの50、58、65、80をデビューさせている。ホームポートはポルトフィーノに近く、カルロ・リーバマリーナのあるラパロに近接するサンタ・マルガリータ・リグレ。地中海リグリアのマリタイム文化の中心地だ。OTAMはそのマリン文化の象徴でもある。クラシックディープVハル、トランサムデッドライズ21度はマイアミから地中海リグリアのOTAMにも継承されてきた。強靭さを誇るハルはバキュームケブラー。そのシンボル艇80フィートのMr.BROWNが眼の前にいる。

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全長25.50m全幅6.05m。アフトのエンターティメントデッキ下には、なんと4基のMTUエンジンが隠れている!MTU2000 10V1620hp×4、組み合わされるのはサーフェスドライブZF-Trimaxシステム+ローラぺラ5枚×4基だから驚く。

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ギャングウエイから乗り込んでみる。広大なサンベッド、その前方のアフトコクピットには右舷にウエットバーのパーティギアが用意され、左舷と後部にはソフトタッチの真っ白なソファがオープンエア高速クルージングのエンジョイシートとなる。グルービーなクラブサウンドが流れるサロンには、右舷にL字のソファと対面してI字ソファがゆったりと備えられている。その前にはキャビネット。サロンはコクーンの中にいるような穏やかな包まれ感がある。フロントウィンドウは2分割、右舷パイロット席、背後にパンタグラフ式ドアがありキャットウオークへイージーアクセスが可能だ。左舷前方に2脚のパイロットシート、右舷にも2脚のパイロットシートが供えられている。ヘルムは左舷。カーボンケブラーのコンソールには驚くべき風景が広がっている。まるで銀のスプーンのように煌くステアリングは中央寄りのシート前に。その左にはZFのエンジンコントローラが2連、凛と居並ぶ。4基のエンジンスロットルだ。その左には4つのエンジンスターターキーがある。アウトボード4連なら理解しているが...... 

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コンソール左右のレイマリンのGPS&レーダーモニター、その中央には上下にMTUエンジンモニターが2面。それぞれ2画面分割でエンジン情報が表示されている。モニター左にはずらりとエンジン関連スイッチがそれこそ整然と4基分並んでいるのだ。ステアリング右にはフラップスイッチとトリムスイッチが位置している。フラップは通常のトランサム船底両端となんと大型フラップが中央に1枚と説明された。エンジンはスタッガードに搭載され、下層両端に位置するサーフェスシャフト&ペラは、左舷は正回転、右舷はカウンター回転に。さらに中央寄り上部には左舷がカウンター回転、右舷側が正回転でセットされている。この過激なOTAM80、早くカンヌ沖に出て試したい高揚感に襲われていた。ナイトエリアは、バウにオーナーズルームが、左右にツインベッドのゲストルームが用意され、もちろん専用のパウダールームが設えられている。漂う雰囲気は、エレガンスとハイテックの融合がもたらすクール&リュクスな空気が満ちていることは確かだ。フル装備のギャレーもロアフロアに用意され、パーティ対策は抜かりない。インテリアデザインはArchilles Salvagniだ。

1基1基エンジンをかけていく。4基かかってもサロンは静寂さを保っている。いよいよカンヌのOTAMブースから出航。中央の2基はニュートラル、両端のエンジン2基駆け状態で発進。デッドスロー650rpm4.0ノット。ポートを抜け出す。4基のMTU2000 10V1620hpエンジンを左端レバー一本にシンクロさせる。

晴れ、気温24度、南西の風5m。波1.5m。1000rpm10.2ノット。1300rpm12.7ノット。1500rpm16.0ノット。フラップでバウを下げる。コントローラー上に3つ並ぶ2度から12度を示すフラップアングル計は両端が4度、センターが11度を示している。強烈な加速を感じるでもなく、気づくと速度に乗っている感じだ。ターボ領域に入ると加速Gが加わる。1800rpm23.5ノット、2000rpm一気に速度が上がり始める。トリムは全てフルアップ状態。27.6ノット、30.3ノット、36.4ノット、38.6ノット、42.2ノット。900LT/H。この日は世界中からのポテンシャルカスタマーを含め15名が乗船している中でのテストだ。クルージング回転域で40ノットオーバー。はるか遠くでザンザンと波を切り分ける音がする。高速プレーニング時は船底水線長の後端20パーセントのみが水中面にいる設計、まるでオフショアレーサーなのだ。振り向いて銀狐の尾を視てみる。豪快なルースターテールが誇らしげに水煙の弧を描いている。センターフラップは5度、両サイドは2度を示している。

2300rpmMAX速度にチャレンジしてみる。46.5、48.9、49.7、51.2、53.5ノット1200LT/H!全開ターンを試みる。軽やかなステアリングとの連動で4基のドライブが作動しデッドライズ21度のディープVハルは実に痛快にインサイドバンクを伴いターンを開始する。サイドGすら感じるラテラルスタビリティがある。艇速は3ノットほど落ちるが旋回状態に変化はない。恐るべし俊足と軽快感を伴うマニュバービリティを持つOTAM80、まるで異次元移動体だ。4基エンジン総6452hpのエンジンを操り全長25.50m全幅6.05mの快適なオフショアレーシングボートに乗っている、それも妖しげなグルービングサウンドをサロン内に流しながらiPhoneで船内温度管理やAV管理もすまし顔でできてしまうのだから。

それは空撮も終わりカンヌポートへ帰港時に起こった。

24.5ノットでの走行、一艇ルースターテールを巻き上げながらゴージャスな70フィート艇が出てきた。サーフェスドライブ艇のシンボルとも言える有名ブランド艇。1/3マイルほどの距離ですれ違った後にこちらのキャプテンはUターンを開始した。向こうはMAX46ノットと記憶する。ほぼその距離を保ちながら追跡を開始する。その距離はしばらくすると縮まり、追い抜くことはせずその艇の後ろを横切った。サロンからはイタリア語とフランス語で歓声が沸きあがる。

「ペラのマッチングがでたら58ノットは出せる、その時はまた乗りにおいでよ。」

セールス&コミュニケーションマネージャのMatteo Belardinelliからうれしい誘いがあった。帰港する間、走り終わったらクリュグと美形を集めたクラブパーティをやろうよと、にやけ顔で話していた。海の物語がまたひとつ始まったようだ。

文:山崎憲治 Text: Kenji YAMAZAKI

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OTAM Millennium 80 HT "Mr Brown"
Length overall 25.50 mt (83ft 8in)
Length waterline 23.95 mt (78ft 7in)
Beam 6.05 mt (19ft 10in)
Full load draught 1.40 mt (55 in)
Full load displacement 64,000-68,000 Kg
Cabins 3+2
Restrooms 4+1
CE certification B
Engines 4 x MTU 2000 10 V 1620 HP
Transmissions Trimax
Top speed 54 knots (62 mph)
Cruising speed 45 knots (52 mph)
Fuel12000 lt (3170 US gal)
Water1000 lt (264 US gal)

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