イタリアで味わう芳醇の果実フェラーリ・ローマ国際試乗会

「新しい"甘い生活"」「イブニングドレスを纏ったF1マシン」…フェラーリ・ローマの美しきコンセプトは実際どのように車に投影されているのだろうか。そして国際試乗会の舞台としてイタリア・ピエモンテ州のアルバという地が選ばれた理由とは。松本葉が文化的背景も交えてレポートする。

こちらの記事で記された『この映画は、人間の光と影を立体的に映し出していたからこそ時代を超えた美が表現できたのだ』というフレーズになぞらえるならば、フェラーリ・ローマもまた、光と影を立体的に映し出すことでその美を表現している。9月初め、イタリア・ピエモンテ州で開かれた国際試乗会で初めてローマを見たとき、その美しさに息を呑んだ。夕暮れが生み出す光と影の間でボディカラーは濃淡を変え、フォルムに息吹を与えている。均整のとれたサイドビューが殊の外見事だと思った。
 
ポルトフィーノに搭載された3855cc、V8ツインターボに、最新の排ガス基準Euro 6d施行に合わせて、微小な粒子状物質(PM)の排出を抑えるGPFが装着されたにもかかわらず、新カムシャフトの導入などによって馬力は20cvのアップ。何よりポルトフィーノからキャリーオーバーされたボディシェル/シャシー・コンポーネンツはわずか3割という。フェラーリがローマをブランニューと位置付ける所以である。車重も75kg軽減されている。かのSSCは第6世代に進化、技術面でのニュートピックスには8段DCTの採用も含めて事欠かない。それでも今回ローマがこれほど注目を集めるのは、設立10年を迎えた同社デザインセンターが手掛けた美しいスタイリングにあるのだと思う。



ピニンファリーナからバトンを受け取って以来、ボディ・サーフェス形状やラインの複雑化が続いたが、ローマでは明らかに異なる路線を見出した。空力向上に支配されたかのようなエアヴェントもキャラクターラインも見当たらない。純粋な装飾と呼べるのは、気づいた限りではフロントライトと特徴的なグリルを結ぶ小さな菱形のプレートのみ。目頭を想わせる自然なデコレーションだ。スピードに合わせて自動で跳ね上がる電子制御式スポイラーは通常リアのトランクリッドと一体化されている。極論すれば光と影だけでピュア&クリーンを生み出しているのである。これを回帰と呼ぶことを同社では好まないようだが、好むと好まざるとにかかわらず、かつてのフェラーリに形容された「エレガンス」「美しさ」を強く感じとるスタイリングが与えられたことは間違いない。「イタリアの美の遺伝子が映画『甘い生活』に凝縮されている」という前稿の分析を拝借するなら、ローマにはフェラーリの美の遺伝子が散りばめられていると言えるだろう。ヘリテージを上手に使い、そこに現代解釈を入れ込んだ。


 
今回の国際試乗会は、単独試乗である点も、人数制限を設けたために7週間にわたる長期連続開催となった点でもフェラーリ初という。言わずもがなCOVID-19の影響によるもの。それでも社内で開催に異議を唱える者はいなかったとは広報の弁で、これがフェラーリという会社の強靭さに感じられる。そう言うとマーケティング部責任者、エマニュエレ・カランド氏が意味深な笑みを浮かべた。「コロナ禍という人類に与えられた試練によってこれから我々の暮らしは変わって行くと思います。奇しくもそういう時期にローマは世に送り出された。この宿命に我々ができることは何か。そういう視点からこの地を選んだ。この地で今開催する必要があると考えたのです」

文:松本 葉 写真:フェラーリ Words:Yo MATSUMOTO Images:Ferrari

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