イタリアで味わう芳醇の果実フェラーリ・ローマ国際試乗会


 
彼の言わんとすることが理解できたのは翌日のこと。デュアルコックピットに体を滑り込ませ、エンジンスタートボタンを(タッチ式と気づかず)長押ししてV8に火を入れ、走り出してすぐのことだった。ちなみにスタートボタンは軽くタッチすると跳ね馬が現れ、続いてスクリーンに光が灯る。再度触れるとエンジンが目覚める仕組みだ。今回初めて5ポジションとなったマネッティーノはしばらくウェットに合わせておくよう指示された。



この辺りはトラクターがたくさん走るために路面が滑りやすいためという。そう、此処はトラクターが走るような田舎。いや、「豪華な田舎」と呼ぶに相応しい場所。世界的に知られるスローフード誕生の地であり、白トリュフが採れるのはこの一帯のみ、バローロというイタリア名産ワインの故郷、同時にチョコレートスプレッド、ヌテラの本拠地だ。
 
実際、走り出してすぐ目に入ったのは収穫を迎えた葡萄の木。こんなに綺麗に整列した葡萄の木を見るのは初めてのこと。ヘーゼルナッツに至っては「ヘーゼルナッツの木」自体、生まれて初めて見た。葉っぱがくしゃっとしていることが印象的。世界の3分の1 のヘーゼルナッツがここで採取され、大量の殻は暖炉を燃やすために使われるそうだ。葡萄とヘーゼルナッツの向こうにイタリア語でコッリーナと呼ばれる小山が見える。いつまでも見ていたい素晴らしい景色。昨日まで、マスクやそこ此処に貼られたソーシャルディスタンスの注意書きによってすっかり姿を変えた都会にいたことが信じられなかった。昨日も此処は今日と同じ顔をしていたはず。世界には自分の居る場所とは違う場所があって、"違う場所"は訪れる者に生きる活力を与えてくれることを実感した。これぞ旅のよさ、グランデツーリングの醍醐味なのだろう。「中身はもっともパワフル、外見はエレガントなGT 」の試乗地にこの地を選んだ意図がわかった気がした。


 
何より信じられなかったのは、この景色を620cv のパワーを有するローマから眺めていること。運転のしやすさに感嘆を覚えた。最初は低速では若干センシティブに感じられるブレーキと、ステアリングの上方、左右に備えられたウィンカーの扱いに戸惑ったが、あっという間に馴染んだ。特に前者についてはコツを掴むとその応答の良さに圧倒的な信頼を感じる。ステアリング・フィールはクイックでピタッと決まり、駆り手の心を読んでいるかのようだ。同じことがSF90ストラダーレから譲られた8段DCTにも言える。ATモードをセレクトしたが、まさにドライバーの意思に沿うかのようにスムーズなシフトアップを自動でおこなう。その静粛性と乗り心地の良さにもまったくもって驚かされた。通常のクルージングでは穏やかと呼ぶに相応しいサウンドを奏でるのである。音が変わるのは3500rpm あたりから。しかしその太いバリトンを味わったのは一瞬。渋滞のせいではない。しばしば前に初代パンダがいて(実に多かった) 、その姿を見ていたらアクセルペダルを踏み込み追い越す気にはなれなかったから。ルーフに農耕具を積んだパンダとローマが同じ道を進む。これがイタリアなのだと思う。
 
自動車は移動とスピードという人間の欲望の土壌が生み出した果実。ローマのステアリングを握って葡萄の芳醇な味を噛み締めた。


フェラーリ・ローマ
ボディサイズ(mm):4656×1974×1301 
ホイールベース:2670mm

車両重量:1472kg 
エンジン形式:V型8気筒90°ターボ

排気量:3855㏄ 
駆動方式:FR 
変速機:8段DCT 

最高出力:456kW(620 cv)/ 5750 - 7500rpm 
最大トルク:760 Nm/3000 - 5750rpm

最高速度:320km/h 
価格:2682万円~(税込)

文:松本 葉 写真:フェラーリ Words:Yo MATSUMOTO Images:Ferrari

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