フェアレディZプロトタイプを前に、スポーツカーを熱く語る

Photography: Sho TAMURA

田村宏志 Hiroshi Tamura :日産自動車株式会社 商品企画本部 商品企画部 チーフ・プロジェクト・スペシャリスト
西川 淳 Jun Nishikawa:モータージャーナリスト。スーパーカーを中心にスポーツカーへの探求心は日本自動車評論業界でも随一。
 
この二人が初めて出会ったとき、お互い30年後に、フェアレディZプロトタイプを前に対談をするような間柄になるとは、まさか思ってはいなかったであろう。当時、西川淳氏はまだ出版社の社員編集者だったし、田村宏志氏もオーテックジャパンの社員として、特装車を手掛けていた。共通の知り合いを通して出会い、たまたま車好き同士として意気投合し、あれから気付けば30年。さまざまな車について、友人として好き勝手に話したことは星の数ほどあれ、公の場で2人がスポーツカー論、それも “フェアレディZ”について語ることは初めてのことかもしれない。


原点はフェアレディZだった二人

田村宏志さん(以下敬称略)といえば、R35日産GT-Rの開発を指揮するチーフ・プロダクト・スペシャリスト(CPS)として、ここ数年、さまざまなメディアに登場している。一方の西川淳さん(以下同敬称略)も、R32からR35まで歴代モデルを乗り継ぐ“無類のGT-R好き”と称されることが多い。しかしこの2人にとって、車好きへの水先案内人は実はフェアレディZだったのだ。

「初めて初代S30型の240Zを見た時、3ナンバーだったから『え、何これ、どこの輸入車なの?(当時国産車はほぼ5ナンバーだった)』と思ってしまった」と田村。当時はスーパーカーブームの真只中。

西川も「我々スーパーカー世代にとっては、セダンから派生したスカイラインGT-Rではなく、やっぱり憧れは正統派スポーツカーのフェアレディZ。先端が尖っていてキャビンが小さい。あの王道のロングノーズ・ショートデッキのスタイリングは、とてもカッコ良く映った」



幼い頃に芽生えたフェアレディZへの憧憬の念は抑えきれず、田村も西川も、免許を取り、何台もの車を乗り継いだ後で、いつしか240Zを手に入れることになる。

「ハコスカ(初代スカイラインGT-R)は確かに良いけれど、ロングノーズでもショートデッキでもないものね」と西川。

それに対して田村は「僕は西川さんより4学年も上だから、10歳の時にハコスカGT-Rが通算50勝目を挙げた瞬間を富士スピードウェイで見ているので、ハコスカへの思い入れは少し強いかも」と。

幼心に、PGC10型スカイライン2000GT-Rの滑るように走る勇姿や、胸に打つように響くエンジンサウンドに魅了されたことを、田村はしっかりと覚えていた。さらにS30型フェアレディZのインパクトを鑑みれば、田村が大学を卒業するときに、フェアレディZとGT-R、その2台の本格スポーツカーを世に送り出した日産自動車の門を叩いたことはとても自然なことであった。

時を経て、2014年にはR35GT-Rの、そして今は新しいフェアレディZのCPS(チーフ・プロダクト・スペシャリスト)に田村は就任している。これは日産の看板スポーツカー2台を開発を担うポジションを歴任したということであり、その田村に対して西川が「スポーツカーとは何か?」と禅問答のような質問を投げた。これが今回対談のきっかけだ。



「とにかくカッコ良くて、速くて、いい音がすること。この条件は絶対に譲れない」と田村。その上でフェアレディZとGT-Rとの違いを田村はこう語った。「この2台の違いを僕がよくひと前で説明するときに用いるのは、フェアレディZはダンスのパートナーであり、一方でGT-Rとはまるで映画に出てくるモビルスーツのようなものである」

これについては、まずGT-Rを先に説明した方がわかりやすいだろう。

人類の英知としての電子デバイスなど、ある種の自動運転技術(田村いはく『ABSだって自動運転0.1レベル。要はいかに上手く地面をつかむか』という技術という意)を使って、600馬力ものパワーを人間の能力で掌握して操ろうとするマシンがGT-Rであるとのこと。

対してフェアレディZは、まるで一緒に踊っていて楽しいパートナーのように、運転をするときの相性の良さがを求められる存在らしい。それに対し「なるほど。もしフェアレディZに乗るならば、お前もダンスが上手くないと、キレイに踊れないよ、ってことね」と西川。

「今はクラッチのある3ペダルより、各種2ペダル仕様のほうが、加速やラップタイムなど数値的には圧倒的に速い。」「でも何ていうのかな……、クラッチをスパッと繋ぐことができた!とか、そういった感性を試されるような楽しさを分かち合えるのって、正にダンスパートナーでしょ?」(田村)

文:籠島康弘 words:Yasuhiro KAGOSHIMA 写真:田村 翔 

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