驚きのヒストリーが秘められていた「残骸」のようなアルファロメオ6C 1750SS

Photography:Ashley Border



「私たちの顧客に、物静かな素敵な人物がいます。この人はいつも、どうしようもない車を見つけてきては、私たちにレストアを持ち込むのです。最初に知り合ったのは、非常に希少なランチア・アウグスタ・マーチスペシャル・ツアラーのリビルドを依頼されたときです。グッドウッドのリッチモンド公爵が設計したもので、"パーツの山"も同然の状態でした。そうした残骸を救うことが彼の生きがいなのです。一度など、私たちがイタリアで見つけた完全にオリジナルのブガッティ・ヴァントーを、状態が"よすぎる"といって断ったんですよ」

「彼のために別のプロジェクトを探し始めたときでした。私はたまたまペブルビーチで、同じイギリス人のニック・ベンウェル(VSCC設立の地であるハンプシャー州ハートリー・ウィントニーでヴィンテージカー・ガレージを経営)から、アメリカにちょうどいい車があるかもしれないと聞きました。ニックが帰国後に送ってくれた情報を見て、ジョージア州に確かめにいくことになったのです。マセラティとアルファのスペシャリストでアメリカに移住したキース・デューリーも同行しました。彼もその車については耳にしていました」

「アルファを所有していたのは、アトランタ近くの辺鄙なところに住むバイクコレクターで、とてもいい人でした。別のアルファと一緒にしばらく前に入手したのですが、売りに出してから、かなり経過していました。価格を高く設定していたからです。彼はムッソリーニとのつながりを承知していて、ヴィンテージ・アルファの専門家として著名なジョン・デ・ボーアがその旨を記した調査結果を見せてくれました。ジョンの情報と私たちの検査、そしてオリジナルのリブレット、つまり車両登録証を根拠に、価格を交渉し、イギリスに輸送する手はずを整えました」
 
サイモンはアルファが主張されているとおりの品だろうとほぼ確信していたものの、さらなる調査が必要なのは明らかだった。ソーンリー・ケラムのチームはこの仕事に熱心に取り組んだ。

「幸い、妻のヴィットリアはイタリア人ですし、チーフメカニックのポール・ウッドワードは筋金入りのアルファ・エンスージアストです。彼らがインターネットで探し始めると、間もなくルーチェ・アーカイブのコレクションの中に、そっくりなアルファに乗るムッソリーニを捉えた一連の写真が見つかりました。日付は1931年で、まさに同じ車だとすぐに分かりました」

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.)  Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Mark Dixon 

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