「イタリアの無冠の王」と称された男に捧げられた特別なフェラーリ・テスタロッサ

Photography:Christian Martin for Artcurial

フェラーリの"オーナー" のためにフェラーリが造ったただ1台のフェラーリ。その事実はこのユニークなテスタロッサ・スパイダーをさらに特別な存在にしているとジェームズ・ペイジが解説する。

このめずらしいフェラーリ・テスタロッサのストーリーは、そもそもの所有者だった伝説的な人物のエピソードだけで占められてしまうかもしれない。これはかつてフィアット帝国を率いたジャンニ・アニエッリ個人のために製作された車なのである。もちろん、車そのものの見事な出来ばえもまた称賛されるべきである。実はテスタロッサのスパイダーは他にも何台か存在するが、フェラーリ自身の工場とピニンファリーナが製作したものはこの1台だけである。



しかも、かつて「イタリアの無冠の王」と称された男に相応しい1台を作り上げるために、費用と労力を惜しまず、細部に至るまで徹底的に吟味されていることが分かる。まさしく特別な1台である。

 
1984年に発表されたテスタロッサは、今なおフェラーリの市販車の中で最も印象的で分かりやすいモデルと見なされている。高性能で快適なグランドツアラーとして開発されたテスタロッサは、その前身モデルに当たるベルリネッタ・ボクサーよりも格段に洗練されていた。ラジエターはフロントではなくボディの両サイドに移され、そのおかげでコクピット内の温度を抑え、またノーズ部のラゲージスペースを拡大することができた。
 
1973年に発表された365GT4BBのフラット12エンジンレイアウトは、グランプリマシーンやスポーツプロトタイプの312PBと共通していたが、テスタロッサが登場したのはそれから10年あまりも後で、その時にはフラット12気筒は既にモーターレーシングの世界での神通力を失っていたものの、素晴らしくスムーズでパワフルなエンジンに進化していた。4バルブ・シリンダーヘッドと改良された燃料噴射システムを備えた5リッター 12気筒は385bhpを生み出し、当時のロードテスターたちはこぞって賞賛したものだ。
 
1986年、フェラーリはシャシーナンバー62897のテスタロッサを、ジャンニ・アニエッリのスパイダーに改造する作業を開始する。アニエッリはイタリアだけが生み出すことができるような人物だった。計り知れない富と権力と影響力を持つべくして育った彼は、ビジネスマンであると同時に政治家であり、そしてまたプレイボーイでもあった。米国のヘンリー・キッシンジャー元国務長官やモナコのレーニエ大公などと親交のある有名人でありながら、いっぽうでは数多の女優や社交界の有名人と浮名を流すカリスマ的なスターでもあった。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:James Page Photography:Christian Martin for Artcurial

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