「イタリアの無冠の王」と称された男に捧げられた特別なフェラーリ・テスタロッサ

Photography:Christian Martin for Artcurial



給油口は左側のフェンダーに移動され、ハンドブレーキ脇にオープナースイッチが設けられている。その隣にはソフトトップの格納カバーを開閉するための3番目のクロームレバーが設置されている。他のふたつはスタンダードモデルにも備わるもので、ひとつはフロントフード、もうひとつはエンジンカバーを開けるためのものだ。エンジンカバーには市販型テスタロッサのようにガスストラットは備わらず、その重さは支柱で支える方式になっている。
 
ルーフを取り去ったことによるボディ剛性低下を補うために、サイドシルは標準モデルよりも幅広く、室内にはさらにいくつかの細かい相違点がある。前後のフォグライトスイッチはオーバーヘッドパネルから55mm延長されたセンターコンソールに移動され、また電動ミラーの調整スイッチもここに設けられている。本来パーキングライトのボタンがあるべき場所にはライターが仕込まれている。



アニエッリはポーカー仲間だった親しい友人に請われて、1991年にこのテスタロッサを譲ったという。その後2016年の2月にレトロモビルでのアールキュリアル・オークションに姿を現すまで、このスパイダーは彼の家族のもとにあった。落札したのはフェラーリと長い関係を持つこの世界の有名人、ロナルド・スターンだった。1975年、スターンはコブラに乗って、マラネロの本社工場を訪ねたという。その訪問をきっかけに彼はフェラーリに魅入られてしまったのである。彼がいる間に、レーシングチームのメカニックたちは気を悪くすることもなく、1台のグランプリカーを引き出してエンジンをかけて見せたという。

「エルマンノ・クオーギが作業しているところを写した素敵な写真を持っている」とスターンは振り返る。「エンジンの轟音はとてつもなく、彼の後ろにいる誰かは耳の穴に指を突っ込んでいる。それはまったく魔法のようだった。マシンはボディワークを外し、いわば裸の状態で置かれていた。誰でも工場の前庭に入って何をしているかを見学することができた。今ではとても考えられないことだね」

「そのうちにエンツォが現れた。彼はクレイ・レガツォーニと一緒に道を渡ってランチに出かけた。そこで私は"一緒に食事をしよう"と考えた。若者は都合よく考えがちだからね。彼らは控室のような部屋に入り、私は私でパスタを食べた。とても暑い日だったことを覚えている。その後、レガツォーニがフィオラノでマシンを走らせている音が聞こえて来た。素晴らしい一日だったよ」



それからというものコレクションを築き上げ・・・後編へ続く

編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:James Page Photography:Christian Martin for Artcurial

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