ジェームズ・ボンドを探して・・・ロータス・エスプリで出かける冒険

Photography:Justin Leighton

ハリー・メトカーフは自らのロータス・エスプリを駆ってコルティナ・ダンペッツォを目指した。ジェームズ・ボンドが映画『ユア・アイズ・オンリー』でエスプリを走らせたロケーションを訪ねるために⋯

これは幸先がいい。速度無制限のアウトバーン"A7"はガラガラに空いており、私がステアリングを握るエスプリのスピードメーターは先ほどから130mph(約208km/h)前後をいったりきたりしている。明るい陽射しがガラスサンルーフを通じてキャビンに降り注いでいるものの、温度計の針は0゜C付近を指しているので外はかなり寒いはずだ。はるか彼方の地平線上には、山頂が雪で覆われたオーストリア・アルプスの険しい稜線が雲ひとつない青空を背景にしてかすかに見える。まさに絶景。しかも、これから訪れるのは映画の撮影に用いられた場所である。なんとも不思議な気分だ。

私がドライブしているのは排気量2.2リッターの4気筒ターボエンジンを積むターボ・エスプリHCである。ただし、このちっぽけなエンジンは冷たい空気が大好物のようで、100mph(約160km/h)を越えてからも充分以上のパワーを生み出してくれる。そんな速度域で走っているとき、スピードを緩めたいと思わせるのはBピラー周りで発生する風切り音くらいのもので、エンジンは驚くほどの余力を残している。とはいえ、いまエンジンに不要なストレスをかけることもあるまい。



なにしろ、私たちの目的地はここから南に240マイル(約384km)ほど走った先にあるのだから。

私はなぜ、ジウジアーロがデザインした1987年製ロータス・ターボ・エスプリHCで、冬の冷え込んだアウトバーンを飛ばしているのか。理由は"ボンド"。そう、あのジェームズ・ボンドである。私たちは気が動転しているわけではない。ただ、熱い興奮に包まれているだけだ。

ここで時計の針を1981年1月4日の日曜日まで戻そう。この日、私にはほとんど見分けのつかない2台のロータス・ターボ・エスプリが、ヘゼルにあるロータスの工場を出発する。彼らには厳命が下されていた。

翌日までに007映画『ユア・アイズ・オンリー』の撮影現場に2台のエスプリを運び込むことが、その使命である。彼らが目指したのは、イタリアのドロミテ山地にあってシックなスキーリゾートとして名高いコルティナだった。密命を帯びたドライバーは、ひとりがロータスでダイナミック・エンジニアリングのトップを務めるデイヴ・ミンターで、もうひとりはロータスのマーケティングとPRを一手に引き受けていたドン・マクラクラン。ロータス・エスプリが007映画のボンドカーに抜擢されたのはマクラクランの功績だった。



彼らにとっての唯一の問題は天候に恵まれないことで、1月のひどく冷え込んだこの週末、オーストリアからコルティナに向かう道路は大雪の影響で通行止めとなっていた。このため、彼らはドイツからオーストリアを越えてコルティナに向かうルートを諦め、大きく迂回することを余儀なくされる。ふたりはカレーに向かうと、夜行列車に2台のエスプリを積み込んでニースまで移動。月曜日の朝にニースに到着した彼らはまずジェノヴァに向かい、そこから進路を北に変えてミラノを経由し、南側からコルティナにアプローチした。

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Harry Metcalfe Photography:Justin Leighton

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