ジェームズ・ボンドを探して・・・ロータス・エスプリで出かける冒険

Photography:Justin Leighton



今回の私の旅は、30年前にロータスのスタッフが選んだルートではなかった。オーストリアから向かうルートの景色が得も言われぬほど壮観だという話を聞いたこともあって、私はより距離の短いルートでコルティナを目指すことにしたのだ。

オーストリア国境が近づいてきたところでハイスピード・ツーリングは幕を閉じる。トンネルを通過すると高速道路は一般的な片側2車線へと姿を変え、最初はインスブルックに向かい、そこから山並みを目指していった。たしかに速度は劇的に落ちたが、車外の景色は格段に美しさを増した。地図を開くと、オーストラリアはまるでソーセージのような形をしていて、ドイツとイタリアの間に水平に置かれているように見える。私たちはその真ん中を突っ切ってドロミテを目指すことにした。

不運だったのは、イタリアに向かうトラックの大半が私たちと同じルートを進んでいることで、窓の外の眺めは素晴らしいのに、運転はひどく退屈に感じられた。ところが、私たちがイタリアの国境に着いたとき、ふたつのことが起きる。ひとつは、呪われているかのように厳格な速度制限がすべてなくなって、追い越しが容易になったこと。ふたつめは、それまで同じルートを進んでいた大量のトラックが、コルティナ方面以外のどこかに走り去っていったことにある。たった1台だけになった私たちは、美しいSS51を辿りながら街へと向かった。



私は何台かの車を所有しているが、ターボ・エスプリHCはそのなかでもっとも優れた才能の持ち主だと信じている。まず、エアコン、脱着式グラスルーフ、革張りのインテリアといった豪華装備を備えているにもかかわらず、車重が1146kgと極めて軽い点だ。続いて、もしも貴方がドライビングに興味をお持ちなら、その期待に応えるあらゆるフィードバックや楽しさを最大限に引き出すチューニングが施されている点にある。

たしかに、足下のスペースはいささか狭い。これについて、かつてコーリン・チャプマンに訊ねたところ「ロータスの顧客は運転する際に無骨なブーツを履いたりはしない」と笑顔で答えたが、ブレーキペダルの剛性感は極めて高く、ヒール&トーをするには理想的なポジションに取り付けられている。



ステアリングはノンアシストなので、パーキングスピードでは呆れるほど重いが、アルプスのツィスティーな道では驚くくらい操舵力が軽くなり、狙った走行ラインを正確にトレースできる。そしてコーナリングでは、アペックスを通過する際の微妙なカントの変化を余すところなくドライバーに伝え、コーナーの脱出では次のストレートに向けて鋭い加速を示す。私は、この中毒性の強い"ゲーム"をコルティナに近づくまで何度となく楽しんだ。やがて道の山側が濃い森に覆われると、それまで遠ざかっていた文明の証しともいうべき道路標識が現れるようになり、コルティナ・ダンペッツォがそう遠くないことを知らせてくれる。心躍るワインディングロードは終わり、私たちはコルティナの街に入ったのだ。


この先に待ち受ける道は・・・次回へ続く

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Harry Metcalfe Photography:Justin Leighton

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