「Your Majesty, there is no second(陛下、2位はございません)」
これは、1851年に開催された第1回アメリカズカップを観覧したヴィクトリア女王の「2位はどのチームか」との問いに対する関係者の返答だ。優勝してカップを手に入れるか、それ以外か。このヨットレースの本質をあらわす言葉である。
© ACEA / PHOTO GILLES MARTIN-RAGET
アメリカズカップは1896年に始まった近代オリンピック大会より歴史が古く、第1回のレースは、1851年にロンドンで開かれた第1回万国博覧会の記念行事としてイギリスで開催された。イギリスを代表するヨットと、新興国であるアメリカからやって来た"アメリカ"号で争われ、そこで勝利したのがアメリカ号。そう、アメリカズカップという名は、国名ではなく船名にちなんでつけられた名称なのだ。"アメリカンカップ"ではなく"アメリカズカップ"となっている由来である。
こうしてアメリカに持ち帰られたカップを奪取するため、各国が威信をかけてカップ保持者に戦いを挑むのがアメリカズカップである。アメリカは1983年までの132年間にわたって、イギリスをはじめとする各国からの挑戦に対し、カップを守り続けた。1983年に初めてアメリカに勝利したのはオーストラリア。また、この年からルイ・ヴィトンが「ルイ・ヴィトンカップ」をサポートし、そのパートナーシップは現在も続いている。(「ルイ・ヴィトン・アメリカズカップ・ワールドシリーズ」は、アメリカズカップへの挑戦権を得るために世界各国で行われる予選シリーズ。その後行われる「アメリカズカップ・チャレンジャーシリーズ」で挑戦チーム代表を選出する。)
©Louis Vuitton
次の1987年大会で、アメリカはその名も"Stars & Stripes ’87"号でチャンピオン艇のオーストラリアに挑戦しカップを奪還したが、1995年と2000年にニュージーランドが、2003年と2007年にはスイスが勝利。2010年大会で改めてアメリカが勝利を収め、2013年には防衛に成功。バミューダ諸島で開催された第35回となる2017年大会(正式名:第35回アメリカズカップpresented by ルイ・ヴィトン)では、アメリカがチャンピオンとして再び防衛に成功するかに関心が集まっていた。
© ACEA 2017 / Photo Sander van der Borch
空飛ぶヨットを、足で漕ぐ
チャンピオン艇、オラクル・チームUSAに挑戦する権利を得たのは、エミレーツ・チーム・ニュージーランド。注目すべきはニュージーランドの"足漕ぎ"戦法だ。油圧供給システムを操作するグラインダーは、ハンドルを手で回す方式が一般的とされていたが、ニュージーランドは自転車のペダルのようなものを足で漕ぐ方式を採用した。
© ACEA 2017 / Photo Gilles Martin-Raget
© ACEA 2017 / Photo Sander van der Borch
© ACEA 2017 / Photo Ricardo Pinto
船体はカタマランと呼ばれる双胴船。ヨットに付いている水中翼(フォイル:ダガーボード、ラダー)と揚力の効果でフォイリング(=浮き上がる)することにより、空を飛びながら疾走する。
© ACEA 2017 / Photo Ricardo Pinto
2007年時点での最高速度は18ノット(時速約33キロ)だったが、フォイリングが実現した現在では50ノット(時速約92キロ)以上での帆走が可能となっている。
水の抵抗がなくなるために速度が増しているということは、裏を返せば、ターン時などに少しでも船体が着水すると大きなロスになるということだ。まさに船体のテクノロジーと、クルーの技術力の粋を集めたスポーツといえるだろう。この迫力を、是非動画でもご覧いただきたい。
結果は大方の予想に反し、これまでの常識を覆す"足漕ぎ"方式のエミレーツ・チーム・ニュージーランドが通算8勝1敗で防衛艇のオラクル・チームUSAを大差で破り、アメリカの3連覇を阻んだ。
© ACEA 2017 / Photo Ricardo Pinto
© ACEA 2017 / Photo Sander van der Borch
また、今回の大会へは日本からも17年ぶりに"ソフトバンク・チーム・ジャパン"が挑戦艇として名乗りを上げ、準決勝まで進出したが、スウェーデンのアルテミス・レーシングに惜しくも敗れている。
カップは南半球へと渡るが、次回は王者ニュージーランドに対してどのチームが挑戦することになるのか。今から楽しみである。
© ACEA 2017 / Photo Ricardo Pinto
アメリカズカップ公式サイト
URL:https://www.americascup.com/en/home.html
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