「悲劇の車」シトロエンGSビロトールを訪ねてハンガリーへ

Photography:Tomonari SAKURAI

ヨーロッパはご存じのように春先の感染者数を大きく上回る状況からロックダウンに入る国が多くなった。フランスも外出禁止令が再び発せられモンレリでの今年最後のイベントが中止となった。外に出てはいけないので撮影にも行けない。ということで久しぶりとなってしまった。

現在ハンガリーにいる。国境を封鎖しているが、ちゃんと精勤手続きで入国している。そこで8月にお邪魔した時にはまだレストアが完了していなかったシトロエンGSビロトールを見に行った。すでにレストアは完了していたのでちょっと一廻り。ハンガリーは現在夜間外出禁止令が出ているが、日中はまだ自由に動けるのだ。

ロータリーエンジンをモチーフとしたビロトールのロゴ。


ガレージから出てきたビロトールは新車の輝きで登場だ。8月までくすんでいたボディは再塗装ではなく、磨き上げただけで当時のオリジナルのペイントのままで登場。暖機をしながら外見を見回してタマス氏に話を聞く。そして頃合いを見てドライブへと出発。内装もほぼオリジナルのまま。ホールド感が適度にあるシートはふんわりと何とも心地よい。走り出すとシトロエンのいわゆる猫足で、ハンガリーの荒れた舗装路がウソのようにスムーズに走る。車の流れに乗って巡航速度でゆっくり走る。

シトロエンのそれと分かるシルエット。シトロエンGSと変わらないスタイル。カラーはスカラベと呼ばれたビロトール専用のものでGSと差別化している。


回転速度を上げないで走ると「こんなものかな」という感覚。特別に早いふけ上がりもなくロータリーを感じるエクゾーストノートというわけでもなく、おとなしく乗用車らしい走り。タマス氏は「ふけ上がりはゆっくりとしてるんだ」という。道がすき、少しスピードが出せそうな所に来るとアクセルをぐっと踏み込む。4000回転を超えるあたりから体がシートに沈み込む。今までのふけ上がり方とはひと味違う。ちょうど2ストロークのエンジンのようだ。甲高いエグゾーストノートはこれがツインローターのロータリーエンジンである事を思い出させてくれた。

レストアを完成させたこと、そしてビロトールが想像以上に楽しく走ることで多いに満足したオーナーのタマス氏。


107馬力という数字は当時では高い方だ。スムーズに路面をとらえているサスは速度が上がっても変わらず安定していてスピードが上がってきても不安は全くない。クラッチのない、3速というギアボックス。Cマチックを搭載している。クラッチペダルは無くトルコンでコントロールされる。オートマと違ってドライバーの必要とするギアで走ることが出来る。それがスムーズに変速するので快適なシートにスムーズなサスと相まってなんとも乗り心地の良い車なのだ!それでいてアクセルをちょっと踏み込めば、甲高いロータリーサウンドでエキサイティングな走りも出来る。こんなおもしろい車が847台しか生産されず、そしてそのほとんどが回収され解体されてしまった悲劇の車なのだ。

NSUと共同開発されたツインローターエンジンが収まっている。ハイドロマチック、Cマチックと当時の最新機構がぎっしりでエアコンもないのに隙間がない。


レストアを終えて、当時いわれた信頼性という面では特に不安はないという。確かに他の車以上に短い走行距離での整備、時には部品の交換するなど手間のかかる車になるがそれを怠らなければ安心して走らせることが出来るという。外装パーツも含めてもほとんどGSと共通パーツがなくビロトールが如何に特別に作られていたか今さらながらに理解させられる。

コクピットはGSとは違う。ビロトールがただ者では無いというたたずまい。メーターは200km/hまで。


それだけにパーツの入手が困難でレストアには大変な思いをした。エンジンはNSUとの共同開発という事もありNSUのロータリーエンジンを保存している協会からの協力があって完璧に近いレストアが出来たという。もちろんタマス氏はビロトールを手放すつもりはない。今所持する車の中で2番目に好きな車だということだ。

シートはソフトな手触りの布。ダッシュボード中央から延びるハンドルのよ うなもがパーキングブレーキ。シフトノブの後ろにはヒーターの温度調節、そして車高調節レバ ーが備わっている。


では1番は?それはルノー 17ゴルディニ。1月に行われるモンテカルロラリークラシックにエントリーを済ませ、それに合わせてセッティング中のそのゴルディニは次回にお伝えします!

Photography & Words: Tomonari SAKURAI

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