「走ることは自由そのものなのです」リシャール・ミル氏にインタビュー

ヨーロッパ人というのはおしなべて車を運転することを苦としない。ばかりか「美味しいお店があるからどうだい」と誘われて、それが100kmも離れた場所だったなどという話がまんざら大袈裟な話ではないほどに走る。どうやら我々日本人とは自走による移動時間と距離感覚が抜本的に違うように思えてならないほどに。そんな「走ること」が全世界的規模で制度的にも精神的にも制約された春と夏を過ごした。こんな時だからこそあらためて、走ること、車を楽しむことについて語りたい。できれば生粋のカーラヴァーと。
 
はじめてリシャール・ミルさんの邸宅にお邪魔した日のことはよく覚えている。4年前のことだ。「ル・マン クラシック」を観戦・取材した翌日だった。場所はパリの南南東300kmほど、「ル・マン クラシック」の開催地であるサルト・サーキットからは南東へ450kmほどの距離にあるレンヌという街の郊外。スケジュールはリシャール・ミルさんの邸宅でのランチが予定されていた。我々は昨晩のうちにル・マンを離れ、レンヌ近郊のホテルに宿泊、翌日の午前中にはリシャールさんの邸宅に向かった。

リシャールさんご本人が到着したのは正午過ぎ。我々がウェルカムドリンクを頂戴しはじめて間もなくだった。自身の運転する車をスルスルと敷地に入れながら、「お待たせしました!一部道が混んでいていまして」。聞けば「ル・マン クラシック」のアフターパーティなどがあり、今朝ル・マンから走ってきたそうだ。耳を疑うような話だが、早朝から450kmの行程を自身がステアリングを握ってドライブし、日本からのゲストとランチを執ることはまるで特別なことではないようだった。



「パリを抜け出して運転するのが好きですね。ヨーロッパには素晴らしい遊び場と信じられないほどの多様な景観がありますから。パリを離れたら、フランス中に張り巡らされた道路網を使って縦横無尽に楽しむのです。走ることは本当の喜びです」

「仕事の合間の運転は、ひとりになり、ビジネスなどを振り返る時間。電話をかけたり誰かにコンタクトを取ったり、時間を調整するタイミングでもあります。また、ひとりでドライブすることは景色を眺めながら物思いにふける時間ですが、友人や家族と一緒にドライブすることも楽しみのひとつです」とにかく「走る人」という印象が強い。どこでお会いしても自身がステアリングを握り登場する。それはサーキットでも同じだ。トラックでは自身が所有する歴戦のクラシックフォーミュラのコクピットに収まって存分に走らせる。それにしてもかつて「サウンド・オブ・エンジン」でフェラーリ312Tを駆る姿は強烈だった。

文:前田陽一郎(本誌) イラスト:あべ あつし Words:Yoichiro MAEDA(Octane Japan ) Illustration:Atsushi AVE

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