「走ることは自由そのものなのです」リシャール・ミル氏にインタビュー



「トラックを運転することで自由になれるのです。それから、そのレーシングカーが並外れた目的のためにデザインされ、設計されたという本来の目的を知ることもできますから。私の所有している車のほとんどは60年代と70年代のものですが、その当時は(スピードの追求とともに)まだ脆弱だったマシンの安全性の改善が急務でした。その中で多くのレーシングドライバーがクラッシュをしたり、命を落としたりしました。(そんなエピソードも踏まえて)走るとは彼らに多大な敬意を払うことでもあるのです」
 
リシャールさんのカーコレクションはその数、車両ともに公表されていない。「確かに60〜70年代の車両を多く所有はしていますが、それはF1カー、ラリーカー、ル・マンを走った耐久マシンと多岐に渡ります。そしてもちろんいくつかの象徴的なロードカーも。あらゆる種類の車を所有しており、特にひとつのブランドに焦点を当てたことはありません。車の楽しみは、その車を購入することから始まります。特に歴史的な車を購入する場合は、その歴史、所有者履歴、競技履歴を掘り下げ、知るという購入のプロセスそのものが楽しみの一部です。所有してからは元の状態に維持、または復元することに情熱を費やします。これらの驚くべき機械とそれらを最初に開発したエンジニアに対して、その技術を継承する責任を感じながらね」
 
ところで現在の(移動のための)メインカーを尋ねると「今は毎日ポルシェ911ターボカブリオレを運転しています。パリにいるときは徒歩を優先していますが(笑)」 走行距離を尋ねると「今年はまだそれほど多く走っていませんね」 3月初旬にルーブル博物館が休館となり、3月17日には外出禁止令が出されたフランス。その国家のあり様でもある自由を自ら制約せざるを得なかったコロナ禍をどう捉えたのか。今回の特集を作るにあたり、まず「走る」理由についてお話しを伺いたかったのはリシャールさんだった。



誕生から10数年で世界のラグジュアリーウォッチマーケットの頂点を極めた成功者であり、「ル・マン クラシック」「サウンド・オブ・エンジン」「シャンティイ・アート&エレガンス」「ラリー・デ・プランセス」「ラリー・デ・レジェンド」など、トラック、コンクール、ラリー、クラシックカーのあらゆるスタイルのイベントを主催・協賛し、時に自身も参加し走行することを楽しむカーラヴァーにとって「走る」とは何を意味するのか。コロナ禍での移動の制約とともに質問したところ、極めてシンプルな答えが返ってきた。「(走るとは)自由そのもの、でしょう。いつでもどこへでも思い立ったら行くことができるなんて、それ自体、車が1世紀以上にわたって提供しているラグジュアリーそのものじゃないですか」

文:前田陽一郎(本誌) イラスト:あべ あつし Words:Yoichiro MAEDA(Octane Japan ) Illustration:Atsushi AVE

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