「走ることは自由そのものなのです」リシャール・ミル氏にインタビュー


 
この原稿の中のリシャールさんによるコメントはすべてご自身の夏季休暇中に我々がいくつかの質問を用意し、それにメールで答えていただき、構成したものだ。ヨーロピアンにとっての夏季休暇のプライオリティの高さは編集部としても承知しているつもりだ。だからさすがに返信は9月に入ってからも想定していた。ところが質問を送って1週間ほどで返信が届いたことには感謝するとともに驚きでもあった。と同時にカーカルチャーへのリシャールさんの想いのようなものを感ぜざるを得なかった。

「仕事を始めてすぐに購入したのはルノー・アルピーヌA110。いつかは所有したいと夢見ていたのはランチア・ストラトスで、実際それは驚嘆するほどのドライビング体験を提供してくれる車でした」 はじめて所有した車や思い出に残るドライブ体験に質問を移しても、やはり答えは車とその走行体験だった。実は編集部としてはちょっとしたロマンスの話も期待していたのだが。

 


「車はもちろん、時計、自転車、飛行機など、機械的または技術的なものすべてに常に情熱を傾けてきました。機能がフォームを決定し、その逆は私にとって重要ではありません。私の時計たちは自動車や航空機産業がそうであるように、常に技術的な挑戦と開発を続けています。それは揺るぎない姿勢でもあるのです」

「私たちは歴史のある時計ブランドではありません。だからこそ創業以来、すべてのことに情熱を傾けながら完璧を実現するよう常に努力してきました。私たちに妥協はないのです」
 
多くの車好きがなぜ時計に惹かれるのか、個人としての見解も伺った。

「私たちがそれらに惹かれるのは、車も腕時計も、そのひとつひとつに情熱を伴う多くの物語の組み合わせであるからではないでしょうか。私たちは技術的側面とデザイン的側面の両方に魅了されるのだと思います。手首の上で、ガレージで、常にワクワクさせてくれる存在が車と腕時計なのではないでしょうか」
 
リシャールさんから届いたコメントにはどこにもコロナを憂う言葉は見当たらなかった。むしろ走ることと車への愛情にあふれていた。リシャールさんにとって走るとは自由そのもの。たくさんの車を所有し、当時の開発の労苦、アイデア、関わった人たちに思いを馳せることもまた走ることなのだろう。

文:前田陽一郎(本誌) イラスト:あべ あつし Words:Yoichiro MAEDA(Octane Japan ) Illustration:Atsushi AVE

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