世界に1本の万年筆│漆の魅力に憑りつかれたフランス人職人

Photography:Tomonari SAKURAI

パリの西方、セーヌ川を越えるとムードンという街がある。そこにはLe potager du Dauphinがある。ここはルイ14世が息子グラン・ドーフィンの為に購入して王室の領地となった。現在まで色々と使われてきたが現在ではムードン市が芸術家のためにその建物の部屋をアトリエとして開放している。

そこには僕の作品をプリントしてもらっているフランス人間国宝のエリオグラビュールのアトリエがあるほか、美術館の絵画も手がける修復、宮殿やお城の家具の家具の修復などから彫刻家、ファッションデザイナーなどは場広いアーティストがいる。その中の一人アレクサンドル・デュボック氏(ALEXANDRE DUBOC)はペンのアーティストだ。自分でデザインしたペンを作る他カスタマーの依頼を受けて世界に1本の万年筆を作ってくれる。

木がベースなので軽くしっとりと手に馴染む。


アレクサンドル氏はギターを作る職人だった。ところがあるときひらめいたのはペン。それをスケッチし、実際に作ってみるとその魅力に取り憑かれ万年筆を想像し作ることに専念したのだ。彼が作るのは万年筆のペン軸。セルロイドなどの樹脂に始まり、金属、そして自然の素材木にたどり着いた。その木には漆を塗る。今度はその漆に取り憑かれた。日本を訪れ京都の蒔絵の職人からその技を学び、現在でも年に一度その技術の腕を磨くために訪れているほどだ。彼の作るペンは日本のペンショーでも紹介されているとのこと。今はアメリカのコレクターからの依頼で5本セットのモデルを制作中。

壁には彼のアイデアが貼られている。

これが最初にひらめいたデザインで、実際に製作された万年筆。万年筆本体にカバーが付いているという具合だ。


ニブはドイツ製で好みのサイズ、色が選べる。コンバーターかカートリッジ式のインクを使用するかなども選ぶことが出来る。自分のペンの持ち方、指や手のサイズに合わせた大きさや太さなど自由自在。僕はペリカンの筆のような書き味が好きでM1000とM300を常用する。それに慣れているせいかアレクサンドルの作品、特に蒔絵は木製という事もあって太めなのに軽い。それを実際に持って、ここをちょっと長くして細くするとぴったり合うな、などと思うようになる。

形状だけで無く、色々な技法で作られた蒔絵の万年筆。

ニブはゴールドやデュアルトーンも。


それを彼に伝えればそのサイズのものを付く手もらえる。色や絵柄は彼に任せても、だいたいの色を大まかに伝えることも、また完全に自分のデザインを活かして貰うことも出来る。ペン軸にロゴやイニシャルなど文字入れも可能。自分だけの万年筆が作れるなんてワクワクする。

僕が写真の作品作りでよく訪れているアトリエの中にこんな工房があったなんて!

Photography & Words: Tomonari SAKURAI

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