モールトン自転車の魅力を知り尽くしている日本人を訪ねて

全体のフォルムはモールトンのイメージから逸脱していない。17インチホイールを採用しよりモールトンらしく、正常進化型と言って良いだろう。

1950年代にアレックス・イシゴニスの設計したMINIのサスペンションとして採用されたラバーコーン。これを発明したのがアレックス・モールトン博士。

その後、航空力学の経験を活かし、ラバーコンサスペンションを用いて、且つ空気抵抗を考慮した小径ホイールの自転車モールトン・バイシクルを発表。1963年当時、小径ホイールは他になく、かわいらしいその姿をコベントリーCC キャッチ・オポジション大会で目にした聴衆はロードバイクのレースの間のコミカルな余興が始まったと思った。

しかし周回を重ねる毎にタイムが更新され、そこでの記録を樹立してしまう。これはモールトン博士の設計の証であり革命的な自転車の登場となったのだ。しかしながら、ロードレースは厳格な規定を崩そうとせず、使用出来る競技自転車の規定のため公式なレースには使用出来ない車両となったままである。このフレームはFを倒したような形状からFフレームと呼ばれるようになる。

その後、トラス構造を持つ髙剛性スペースフレームを用いたAMモデルを1983年に発表。その美しさから世界中にその名を知らしめファンを獲得していった。自転車の構造から、一般的なロードバイクは上から見ると一本の線となっている。これにペダルを漕ぐときに左右別々に力が加えられるためにフレームがしなる。その時に足からの力がロスしている。そこで、髙剛性のフレームを用いることで横へのねじれをゼロに近づけ漕ぐエネルギーを無駄なく後輪に伝えようというものだ。

とにかくよく動くフロントサスペンション。スプリングの固定の仕方からフリクションロスを減らし、それでいて注油など必要の無いメンテナンスフリーであることも驚きの塊である。

ただし、タイヤが路面をとらえるのに当たって前後へのしなりが必要だ。ここでラバーコーンサスペンションを取り入れているのだ。このサスペンションは路面からの細かい振動を吸収することも出来るので、乗り手の負担も和らげる役目にもなりコーナリングでもグリップを得ることが出来る。それらは坂道でペダルンを強く踏み込むような場面でより一層体感出来る。見た目の美しさと、走りの性能を兼ね備えた自転車なのだ。またもうひとつの魅力としてモールトン一家の住む、ストラトフォードアポンエーボンのお城で製造される最上級モデルには、より一層のステータスも兼ね備えている。

 
しかし、モールトン博士が2012年に亡くなって以来アレックスモールトンブランドとして新車種が出てこない。すでにあるモデルをカスタムしたバリエーションがいくつかでるだけ。そのため多くのファンがAMシリーズのようなドキドキするようなモデルの到来を待ちわびているのだ。
 
それに業を煮やしたのが日本の総代理店ダイナベクターである。ダイナベクターはかつて英国二輪車のレストアスクール、トリニティ・スクールを開講していたこともあるので英国車マニアには聞き覚えのある名前だろう。ダイナベクターの富成氏はDV1を発表した。このモデルは2007年に富成氏が自転車のスポークのテンションでフレームの剛性を高めるフレームを考案し、モールトン博士の下に1/4のモデルを持ち込んだ。モールトン博士はこのアイデアを実はすでに持っていたのだ。

ダイナベクターは神田にあるので神田明神の前で撮影。なんといっても日本の匠の技がつぎ込まれているので日本製という事もあり”和”で攻めてみたのだ。ちなみに、これはプロトタイプのため現在販売されているものと使用に違いがある。

フレームの試作品。メインフレームを中央のみにしてスポークをサブフレームとして支えるというもの。4本のスポークの他にボトムにも2本のスポークを配置。

しかしながらその時は髙剛性を出せないと、いったんお蔵入りにしたアイデアだったのだが富成氏の考案したアイデアならばそれが出来そうだということで博士にとってのこのプロジェクトが再開したのだ。次世代のモールトンバイシクルということで共同開発が進んでいくが、2011年の震災に続き2012年にモールトン博士がこの世を去るという困難が待ち構えていた。富成氏はこのプロジェクトをモールトン博士の遺作ととらえ続行を決意し単独で続けていった。

モールトン博士の遺志を継いでDV-1を生み出した富成次郎氏。

 
モールトン博士と深いつながりのあった富成氏だからこそモールトンの自転車を知り尽くしている。それは良いところ、悪いところを含めてだ。そこで、フレームの新設計だけで無くモールトンの自転車の欠点のすべてを洗い直していく。そこ日本の匠の技を融合させていくのだ。最大の特徴であるラバーコーンも素材から見直す。また、自転車という非力な人力によるものを最大限ロスを無くすために各可動部にフリクションロスを無くすための素材や形状を選んで設計が進んでいった。
 
二本になる位置を変更した。ここから最終的に強度と重量をクリアーさせて現在のフレームとなった。

そのできあがったDV1に初めて乗ったときに大分サスが柔らかくなったようで、それでいてスムーズだという第一印象を得た。ところがバネレートは逆に硬いくらいになっているという。各部のフリクションロスでサスやフォークやアームの動きがスムーズでほんのわずかな力でも有効にサスが動くためにサスが柔らかく感じたのだ。今まで乗ったどんな自転車よりもスムーズなのだ。オートバイに乗っている人でノーマルのサスからオーリンズのサスに変えたときに感じる“アレ”なのだ。

次回はこのイギリスの自転車を、日本の匠の技で極上の乗り心地を実現したその詳細をお伝えいたします。

写真&文:櫻井朋成  Words & Photography: Tomonari SAKURAI

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