スクランブラー1200XEは、最先端テクノロジーで開発された普段着感覚で楽しめる、稀有な一台だ。

タンク底部からシート、そしてリアフェンダーへと流れる直線的なラインは、かつてスティーヴ・マックイーンが愛したビンテージ・トライアンフも採用していたオーセンティックなボディライン。それに合わせるようにデザインされたアップタイプの2本出しサイレンサーは、スクランブラーの伝統的なディテールだ。




そしてクラシックとハイテクが融合した1台へ
ただしトライアンフ・スクランブラー1200XEは、さらにその先を行く。進化によって鍛え上げた車体から、最先端の電子制御技術はそのままに、大げさなカウル類を取り払ったのである。そのスタイリングは、フレームとエンジン、タンクとシート、そしてヘッドライトと前後ホイールという、最低限の機能部品と外装部品のみによって構成されている。現在、二輪界にはネオクラシックという流行が吹き荒れているが、このトライアンフ・スクランブラー1200XEはまさに、クラシカルなスタイルとハイテクノロジーが共存するネオクラシックなのである。

木々のなかを走るときや転倒時などに、ライダーの手やレバーを守るブッシュガードは、ハンドル回りにデザイン的なインパクトを与え、車体に逞しいイメージをプラスしている。この角度からも、タンク&シートと2本出しサイレンサーの高いシンクロ率を感じることができる。

このスタイルは、ハードボイルドなレザーの上下や、ハイテクファブリックを駆使したライディングジャケットはもちろん、デニムにスニーカー、シングルライダースやマウンテンパーカーなどカジュアルなスタイルのライダーも受け入れる。いやむしろ、最先端のテクノロジーで開発された車体は、混雑した街中や繁雑な裏路地を苦にせず、まさに普段着感覚でライディングを楽しむことができる。カジュアルなマインドでのライディングこそが、スクランブラー1200XEの真骨頂なのかもしれない。

出力特性が異なる5つのライディングモードはボタン操作で瞬時に変更。エンジンのキャラクターを変えることができる。また今回試乗したXEモデルには車体の傾きや加速/減速など、走行中の車体の状態を感知するIMU(慣性計測装置)を装備し、トラクションコントロールやABSをより細かく制御。ライダーを強力にサポートしている。

「メキシカン1000」で鍛えられた本物の性能
しかしそのオフロード性能は極めて高く、トライアンフは2019年にスクランブラー1200XEで「メキシカン1000」という約1000マイル(1600km)を5日間掛けて走る、世界有数のオフロードレースに参戦。長距離オフロードレース専用に開発された軽量な450ccマシンが並ぶなか、ほとんどスタンダード状態のスクランブラー1200XEで、見事完走を果たしている。その事実からもスクランブラー1200XEのポテンシャルを伺い知ることが出来る。

スクランブラー1200XEは、トライアンフの伝統的なエンジン形式であるバーチカルツインを採用している。2つのシリンダーが直立して並ぶことから“Vertical(バーチカル)=直立”ツインと呼ばれるエンジンは水冷化されているが、空冷エンジンが採用する美しい冷却フィンを持つ。

もうひとつ、スクランブラー1200XEのポテンシャルを知るエピソードがある。それは映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」でのアクションシーンだ。そのシリーズ最新作では、石灰岩をくりぬいて作られた街として知られるイタリア・マテーナを舞台に、つづらおりの細い通路で豪快にジャンプして上の階層まで飛び上がるアクションが披露されている。そのベースマシンスクランブラー1200XEであり、そのアクションは1000ccオーバーの大型車としては驚異的だ。余談だが、その劇中で使用されたマシンをベースにした007シリーズ初のオフィシャルなジェームス・ボンドモデル/スクランブラー1200ボンド・エディションも発売されている。

背中を丸めたネイキッドモデル的な乗り方ではなく、背筋を伸ばし少し肘を張る、オフロードバイク的なライディングスタイルがしっくりとくる。視界も広がり、ハンドル操作にも余裕が生まれることから、こんな細い路地でも余裕を持って車体を操作できる。


文:河野正士 写真:高柳健 Words:Tadashi KONO Photography:Ken TAKAYANAGI

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