改良の繰り返し 伝統のスタイルは継承しつつ乗り心地は21世紀の自転車に

Photography:Tomonari SAKURAI

モールトン博士の意思を受け継ぎ博士が世をさってからもダイナベクターでその開発は進められた。モールトン博士のデザインを日本の技術で最高の一台に仕上げたい。最新のモールトンに相応しいものに仕上げたい。そんな思いから、細部にわたって今まであったモールトンを見直して改善できるところに手を入れていった。

そのほとんどは可動部でサスに関わるパーツだった。メンテナンスフリーでフリクションロスを徹底的に軽減させる。素材や形状の見直しだ。いくらフリクションロスをなくしても常に給油しなければいけないのでは使い勝手が悪い。油が切れれば錆が出たり動かなくなっては意味がない。そこで見つけた素材と工作精度を上げることで解決していった。そう書くと簡単に聞こえるが、それはアイデアを出して作っては改良しの繰り返しで生まれたものだった。

モールトン博士の遺志を継ぐ自転車DV-1。写真はプロトタイプ。

フロントメカの台座はディレーラー本体とケーブルストッパーを一体化。殿 堂を選んでも十分に強度に耐えられる。


そして何よりメインであるフレームの製造である。パイプを溶接してフレームを作っていく。いわゆる自転車のフレームビルダーは子の日本にもたくさんいるわけだが、そういっところに依頼すると「自転車はこう作る」とい概念にとらわれる可能性がある。と判断し、溶接のスペシャリストに依頼することにした。金属加工のスペシャリスト武州工業に依頼した。自転車は初めてだという武州工業は興味津々。

フロントサスペンションのスプリングを抑えるパーツ。スプリングにねじ込 んで固定するのだ。

従来は下のスプリングのようにフックがある。このフック式だとよじれてち ぎれるなどのトラブルが起こりうる。そこでねじ込み式を考案。

最善の溶接方法をサンプルの段階からいくつもの治具を作り、オーダーしたダイナベクターの期待を大きく上回るものを作り上げてきた。強度テストなどを繰り返し遂に製品化にこぎ着けたのだ。そこで生まれたDV-1は、姿形はモールトンを継承しつつその乗り心地は21世紀の自転車として誕生したのだ。

武州工業でフレーム溶接が行われる。専用のジグはいくつも試されていた。


残念ながらモールトン社からはこれを正式な新製品としてラインナップされていないが(この出来の良さで既存の製品が色あせて見えるからという理由もあるらしい…)まさしくこれはモールトン博士の遺志を継ぐモノであり、その遺志を日本の高い技術力で完璧なまでい仕上げられた自転車なのだ。メンテナンスフリーというのはフレームの塗装にも反映され、軍用で使われるセラコートを使用しモールトンが世界の未開の地を走るようにこのDV-1でそれをしても汚れや水などから護るだけでなく、傷も付きにくいというモノだ。ヴィンテージミニのカントリーマンやVANからモールトンの自転車を引っ張り出すなんていうのがよく見られるように、新生ミニからこのDV-1が出てくるなんていうのもきっと似合うことだろう。

Photography & Words: Tomonari SAKURAI

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事