"今"味わう、極上のグランドツーリング│BENTLEY FLYING SPUR

Photography:Ken TAKAYANAGI


 
インテリアの仕様を確認することも自分でオーダーしたわけじゃないベントレーを見る楽しみのひとつだ。インペリアルブルーというほとんど黒に近い青をセカンドハイドにメインはリネンと呼ばれる柔らかな白を組み合わせていた。ヴェニアパネルはバールウォルナット。定番ともいうべきコンフィギュレーションでありながら、決してありきたりには見えない。上品この上なし、のインテリアである。これに冒頭の「ビヨンド100」でも発表されていたマリナーのツィードオプションを加えれば最高だ、などと夢想する。

職人技が注ぎ込まれたベントレー伝統のインテリア。ラグジュアリー感をさらに醸成しながら、最新イノベーションも盛り込まれている。ロアコンソールからフェイシアにかけてはベントレーウイングのデザインが反映されているのがわかるだろうか。

シートにはロフテッドダイヤモンドレザーキルトが施され、3Dテクスチャーのダイヤモンドレザーを配したドアインサートが組み合わせられている。

精緻な機械が回転し始めたかのようなサウンドを発して、W12 エンジンは目覚めた。その鼓動は抑制が効いていて、これ見よがしではなく、あくまでも控えめである。もっと小さなエンジンが収まっているかのようでもある。聞こえてくる音質そのものがすでに滑らかだ。
 
ゆっくりと走り出せば、その印象に変化はない。アクセルを踏み込んだ量に応じてエンジンの存在が次第に大きく感じられるようになった。右足の裏でペダルの奥にみなぎる力強さを常に感じることはできるが、ドライバーをむやみにけしかけることはない。ゆっくり踏み込んでいけば、穏健で心地よい加速を提供する。そして、車の動きは思いのほか、軽い。

後席に装備される新設計のタッチスクリーンリモート。コンソールに一体化されているが、ボタンひとつで簡単に取り外しが可能。ブラインドやリアシートのマッサージ機能、後席のクライメートコントロールなどを操作できる。
 

 
軽いだけじゃない。車そのものも必要以上に大きく感じることがない。それゆえ、都内の比較的交通量の多い場所でもストレスなく進んでいける。何より、前輪が自由に動くという感覚が嬉しい。フロントオーバーハングが切り詰められているから、思い通りの位置にタイヤを置ける感覚さえあれば、車の大きさなどさほど気にならないものなのだ。

リクライニング機構が装備されるリアシートは、ふんわりしたヘッドレストとともに十分に快適だ。

 
高速道路にノーズを向けた。前が空いた頃合いを見計って、今度はもう少し強い力を右足にこめてみる。たちまちW12は12発らしくなって、膨大なトルクを解放した。エンジンは今やちょっとしたプラントのような存在感をみせていたが、スムースさを見失うことはない。それこそが12気筒らしさというものであろう。

トランク容量は420リッターと必要にして十分。横幅はもちろん奥行きも深く、使い勝手に長けている。燃料タンク容量は90リッターもあり、長距離クルージングにも適している。
 
それにしても、よくできたグランドツーリングカーである。軽く手を添えておけば、まるで車に意思があるかのように道をなぞっていく。ライドフィールはフラット感に満ちていて、定速でのクルージングが素晴らしく心地いい。目的地は横浜だったけれども、なんならこのまま自宅のある京都まで走らせて欲しいと思った。クルーズコントロールの車間制御も素晴らしいから、長距離ドライブもきっと安楽であるに違いない。
 
ミュルザンヌなき今、ベントレーのフラッグシップサルーンはこのフライングスパーである。おそらく、12気筒モデルの先はそう長くない。2021年に出る新型モデルのうち"二台"がPHVであるということからも容易に想像ができよう。極上のエンジンフィールをオーダーメードで味わうなら"今のうち"、というわけだ。

文:西川淳 写真:高柳健 Words:Jun NISHIKAWA Photography:Ken TAKAYANAGI

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