「ファミリー・オリエンテッド」その車に合ったライフスタイルを構築していく



林はパパイヤ発酵食品(FPP)の研究を通じて予防医学による医療費削減を提唱している。仕事がら海外と連携を取ることが多く、英国の王室や貴族の方々との親交も増えてきた。英国は世界で最も歴史を大切にするというお国柄ゆえ、やがて「君もこういったクラシックカーを愉しんでみてはどうか」と誘われるようになった。それがヴィンテージカーを趣味の一つとするきっかけとなった。
 
大里研究所は2005年より、ル・マン24など世界耐久選手権に参戦するアストンマーティンレーシングのオフィシャルパートナーを務めている。目的は、ドライバー、メカニックの耐久レース中の酸化ストレスを防ぎ、脳へのエネルギー供給とダメージの軽減を助け、勝利に貢献することである。そんな中、当時のアストンマーティンCEOのDr. Bezに、林はこのように呟いたことを覚えている。「私は新しい車が好きだけど、もし新車のアストンマーティンDB5があれば、それは欲しいかな」
 
彼は「では、作ってあげるよ」と即答し、なんとその1週間後にベース車が見つかったという連絡があった。時を隔てずレストアがスタートし、2年かけて正に新車クオリティのDB5が完成したのだ。この1964アストンマーティンDB5こそが、林氏にとって最初のクラシックカーとなった。 

DB5のレストア当時、林は何度も英国ニューポートパグネルまで製造工程を確認しに出向いた。いざ乗ってみたら、「これはなかなかいいものだな、楽しいな」といった思いが拡がったという。そして、DB5を通じたライフスタイルを新たに経験することで、予想もしていなかったスピードで海外の様々な方々との繋がりが出来てきた。
 
英国車らしいスポーツカーとして選んだのはアストンマーティンDB7ヴォランテだ。内外装や幌のカラーリングも特別に注文したもの。最終製造工程を家族で視察すると職工との絆が深まる。 

スタイルが気に入り、続いてジャガーEタイプSr.1も仕上げた。ただ、さすがに戦前の車まで趣味の範囲が広がるとは、当時は考えてもいなかったそうだ。それでもWECで活躍するアストンマーティンレーシングのパートナーとして毎年奥様や家族とル・マンなどを訪れるうちに、「アストンマーティンを語るには、戦前の車をもっていなくてはいけないよ」というアドバイスをもらうことに。入手したのはアストンマーティンとしてはめずらしいサルーン、15/98である。
 
林はクラシックカー自体を愉しみながら、同時に多くの友人との親交を深めることで、趣味を超えた新しいライフスタイルが広がってきたに違いない。やがて「あなたはそういった歴史溢れる車を所有しているのだから、ぜひコンクールに出ないか!」と出展を薦められるようになる。
 
林は自身の専門である予防医学のことを英国のクラシックカー仲間にもよく話をしていた。考えてみるとコンクールの参加者や来場者の年齢は60代から70代がメイン。彼らはすでに事業や研究で成功を収めている方ばかりで、コレクタブルなクラシックカーを数多く所有している。ただひとつ足りていないのは、「末永く運転を楽しみたい」という願いへの安心感だ。大里研究所が開発したFPPは、老化とともに低下する脳へのエネルギー供給を高めることにより、認知症予防の観点でもドライバーには効果的であり、ある意味クラシックカーコンクールのコンセプトともぴったりであった。その流れから2016年には英国コンクール・オブ・エレガンスのパートナーとなり、それを通じてより深くクラシックカーの世界を知ることができたという。

クラシックカー愛好家の永く運転を楽しみたいという望みに共鳴し、2016年から大里研究所は英国で開催されるコンクール・オブ・エレガンスのパートナーとして活動を行っている。

 
RACの会員数は世界で約17,000人。入会には正会員2名の推薦が必要で、ウエィティングリストから審査に入るまで最短で6カ月は掛かる。ただし林夫妻はベントレー100周年のイベントで、英国クルーに日本人で唯一招待されたときにRACのベン会長と親交ができ、その邂逅がきっかけでRACへの入会が決まった。またRACのパトロンとしてマイケル・オブ・ケント公がおられ、あるランチの席でケント公から「今度、日本に行きたいと考えている」というお声掛けがあり、2019年3月には軽井沢でのツーリングイベントの開催も実現している。
 
ここまでの話では、英国のクラシックカー界にとてもすんなりと受け入れられたかのように思われるだろうが、林はこう語る。「私は特別なことはしていませんが、何よりもそれまでに築いてきた人間関係が重要だったと思います。予防医学などの研究を通じて『日本のユキって、こういう人物だよ』と、ていねいに私たちをメンバーに紹介してくださる方が多かった。もちろん継続的なアストンマーティンレーシングとのパートナーという信頼関係も大きかったのでしょう。」 

林の生き方は、まず「ファミリー・オリエンテッド」。海外に出掛けるときも、ほとんど奥様と一緒である。その仲睦まじい印象は、海外でもとても温かいものに映ったに違いない。

文:オクタン日本版編集部 写真:サジ ヒデノブ、大里研究所、王立自動車クラブ Words:Octane Japan  Photography:Hidenobu SAJI , Osato Research Institute , The Royal Automobile Club

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