「ファミリー・オリエンテッド」その車に合ったライフスタイルを構築していく



林が注力しているもう一つの活動にも触れておこう。それは世界エイズ研究予防財団である。FPP で認知症予防を図ると同時に、HIVやエイズを予防することこそ、医療費削減に繋がると考える林は、財団の理事兼日本事務所代表を務め、その活動の対象をあえて子供たちにむけている。それは正しい情報を幼少期に教育することこそ重要だと考えているからだ。

もう20年以上も活動を続けている小中学生を対象にした世界エイズ研究予防財団としての働きかけ。正しい知識を早い段階で教育することで、予防医学の重要性を理解させるためである。就学児童生徒に、HIV などの感染経路や、生き方としてこれから大切にすべきことを具体的にわかりやすく伝えていく。
 
たとえばコロナウイルスの感染症について、報道で知る限りはネガティブな話しかない。ただ一方で2020年のインフルエンザ感染者数は著しく少ないことは、ほとんど知られていない。厚生労働省の発表によれば、2019年第48週のインフルエンザ報告数は27,393人、一方今年の同時期の報告数は46人。それは日本全体がマスク着用と手洗いを励行することで、ひとつの感染症を防いだ例と見ることができる。


 
エイズの感染経路は性交渉、注射の回し打ち、母子感染の三つ。小学生には、エイズという病気とは何なのかをわかりやすく説く。そして将来パートナーが出来たときは、安易に親しくなることなく、きちんと時間を掛けて良い関係を築くことを説明するのだ。知識、教育こそが最強の予防薬となる。そしてそれが最終的に自分を、家族を、また相手を守ることに繋がるのだと。

2008年、古くからの友人がHIV 発見によりノーベル医学生理学賞を受賞し、ゲストとしてストックホルムでの授賞式に夫婦で招待される。 

 
大里研究所のある岐阜県では、HIV感染者とエイズ患者がこの1年間で合わせて20人しか増えていない。でもキャリアの方々は7,000円の薬を毎日服用しなくてはならないのだ。もし感染者および患者数が倍々に増えていくと、その治療だけで数億円に上ってしまうという情報は、小中学生にもすぐに理解ができる。「もし、そのお金を高齢化対策や教育に使えるとしたら?」と尋ねると、子供たちは異口同音に「僕たちはそっちを目指さねばならぬ」と答えるらしい。林はこの活動を、もう20年以上も行ってきた。東日本大震災以降は、経済的に困窮する孤児やひとり親家庭の子供の教育を支援する団体「あしなが育英会」への定期的な寄付も行っている。

バチカン、シノドホールで開催された国際会議にて。予防医学による高齢化社会での医療費削減をめざす大里研究所の取り組みについて発表した。

 
コロナ禍で林が心配しているのは、2~3年後に認知症が急増する可能性があることだ。この状況下で多くの老人が外に出られないし、結果として歩くなどの基本的な運動ができない。血流が悪くなり脳のエネルギー代謝も減ってくるので、認知症を引き起こす確率が高まるのだ。林は行政が中心となって予防を考え、運動をするために公園を使うことを提唱する。運動を習慣化づけて、離れながら話をする機会も作ってコミュニケーションを取る。これはストレス発散にもつながる。とにかく、いま出来ることをはじめていく必要があるのだ。
 
クラシックカーを所有して存分に人生を楽しむ余力のある人たちにこそ、その余力を「あしなが育英会」などの子どもたちへの教育支援にも向けてほしい、と林は言う。クラシックカーは唯一無二であり、価格や希少性で他と比べる必要がない。歴史に対する敬愛とクラシックカーへの情熱をもって、継続して世のためになることを考えていけば、日本でもさらにクラシックカーが社会で認められ、裾野が広がってくるはずだと。

いままで購入してきた車のほとんどは、手放すことなくメンテナンスをしっかりと行って大事にしている。戦前車も含め、林自身がていねいに扱うことで完調を保っている。「その車にあったライフスタイルを作る」のが林のこれからの楽しみだ。

 
林は今まで購入した車をほとんど手放すことなく大事に乗り続けている。「大事なのは、いまある車で楽しむこと。私は、その車に合ったライフスタイルをどう作っていくか、それを大切にしていきたいと思います」

大里研究所の社有車。このほか赤いショートホイールベースのランドローバー90も含め、すべて英国車で統一している。地元岐阜のシニアの方々と気持ちよく働ける生きがいの場所造りを目的としたぶどう栽培にも、この車は活躍する。

 
その車に合った生活を、どのように構築していくか。それは正に車に合ったライフスタイルを編集していくこと。林が理事長を務める大里研究所では、研究員や社員も含めて、皆で英国車のある豊かな生活を楽しんでいるようにみえる。それは実に微笑ましい。

文:オクタン日本版編集部 写真:サジ ヒデノブ、大里研究所、王立自動車クラブ Words:Octane Japan  Photography:Hidenobu SAJI , Osato Research Institute , The Royal Automobile Club

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