アルピナに魅せられて│「ネジ一本までレストアされた状態」を本社で実現

Photography:Provided


 
そんなアルピナのもの造りへのフィロソフィーに心を奪われたひとりの日本人がいた。彼がアルピナに強く惹かれていくきっかけとなったのは、新車のE46型アルピナB3Sを購入したことだったという。そのメーカーの歴史と過去モデルを知るうちにB7S TurboCoupeと出会う。330psという当時としては驚異的なパワーを発揮するエンジンを搭載していること、スペシャルカラー"アルピナグリーン"をまとった初めてのアルピナであったこと。この車のためだけに用意された特別なグリーンのタータンチェック柄のシートであること、さらに僅か30台の限定生産であったことなど、いくつもの点において特別な存在であったことを知る。

そしてある日、実車を目にする機会があり、自ら所有したいと強く願うようになった。もちろん探しても容易に見つかる車ではないが、ようやく縁あってB7S Turbo Coupeを日本で手に入れることができた。けっして素晴らしい状態ではなかったが、大きなダメージのないオリジナルコンディションの一台だった。しかし彼は手に入れただけでは満足出来るはずもなく、新車時の姿に忠実に完璧なレストアを施すことが、次なる大きな目標となった。なぜならば、それこそがアルピナ社、そしてブルカルト氏に対する敬意の示し方であると考えたからだ。

2019年7月、ドイツへ向けて出航するため、本牧埠頭にてコンテナ積みされた。

 
ここまできたら、日本でレストア作業を始める流れを想像するであろうが、 今回は違った。このB7S Turbo Coupeが送られた先は、この車の生まれ故郷ドイツのアルピナ社であった。現在のところアルピナ社は車全体のフルレストアを公式に請け負っているわけではないが、オーナーの強い熱意に負ける形で受け入れてくれることになった。そしてニコル・オートモビルズを通じて何度も詳細なやりとりを繰り返し、綿密なレストア計画が立てられた。そしてようやくアルピナ社での受け入れ態勢が整い、2019年夏にドイツに向けて旅立つことになった。

ボディは一旦ベアメタル状態にされ、完璧な修復がなされた。

フロアにはジャッキ誤用による凹みが見られるが、錆や腐りのない良好な状態であった。

整然と並べられた装着を待つパーツ。すべてが新品というわけではないが、こうして見ると再生品との区別がつかない。
 
アルピナ社内にて実施された作業は正に"アルピナらしい"ものだった。ほとんどのパーツが車体から外され、 新品を入手できるものは可能な限り新品に交換、入手不可能なものは当然再利用されることになるが、そのひとつひとつが綺麗にクリーニングされ、 新品と区別がつかないレベルにまでに仕上げられていた。もちろん、エンジンをオーバーホールするのは、ひとりの"マイスター"である。このような「ネジ一本までレストアされた状態」を具現化したアルピナ社のレストア光景を、オーナーは訪問時に目の当たりにして、大きな感銘を受けたという。

すべてのパーツがエンジンルームに戻され、エンジンに再び火が入った。機械式インジェクションシステムのセッティング中である。

KUBE社でのボディワークが終了して、アルピナ社に戻された。下周りまで美しく仕上げられている。

 
アルピナ社はボディワーク部門を自社内に持たないため、新車のアルピナに装着するエアロパーツのペイントを請け負うKUBE社にて、ボディは完璧に修復され、美しいアルピナグリーンにリペイントされた。それに対して内装はアルピナ社の得意とするところである。シートは自社内の内装工房にて特徴的なタータンチェック柄のファブリック部分はそのまま残され、革部分は新しく張り替えられていた。スチール製のため朽ちてしまったマフラーは、素材こそステンレスに変更されているものの、形状はオリジナルに忠実にこの一台のために新しく造られたという。

革部分の張替えが完了し、シートは車両に戻された。タータンチェックのファブリック部分は新しい生地が入手出来ないためそのまま再利用されたそうだが、全く損傷が見られず元々良好な状態であったようだ。

すべてパーツが車体に戻され形としてはほぼ完成状態である。これから走行テストを含めた各部のセッティングと微調整が待っている。もちろん、これからデコラインも貼り付けられる。

 
2020年12月現在、すべてのパーツが車体に戻され、ほぼ完成している状態とのことだが、走行テストを含めたセッティングにもうしばらく時間がかかるという。アルピナ社のことだから、きっと完璧な状態を目指しているに違いない。2021年春までには再び日本に帰ってくる予定となっており、やわらかな桜の季節にターボ車特有の低く乾いたエグゾーストノートを響かせながら痛快な走りを見せてくれることだろう。その完成した姿は、また次回お届けする。その時が今から待ち遠しい。

文:オクタン編集部 写真:オーナー提供 Words:Octane Japan Photography:Provided

RECOMMENDEDおすすめの記事