【知られざる物語】 ピーター・セラーズと彼が愛したアストンマーティンDB4 GT

Photography: Alex Tapley

ピーター・セラーズは1963年公開の刑事コメディ映画の中で、個人所有のアストンマーティンDB4 GTを運転した。我々はその車を再び映画の撮影地へ連れ出した。
 
映画に登場する車やムービースターは数多く存在するものの、シャシーナンバー 0157/Rのアストンマーティンとピーター・セラーズほど深い絆のある共演の例はほとんどない。もう一台の“例の”アストンがショーン・コネリーと出会う2年前、この車はレイ・ガルトンとアラン・シンプソンの犯罪コメディ映画『新・泥棒株式会社』の撮影をしている真っ最中だった。ピーター・セラーズといえば、イギリスの偉大な俳優の1人であるライオネル・ジェフリーズと渡り合うビッグスターであった。

アストンマーティンDB2/4コンバーチブルが登場した1960年公開の『泥棒株式会社』で、この2人は主演を果たしたのだ。この映画は当時の典型的な映画、すなわち魅力的で無垢で、今の基準から考えると政治的な面で必ずしも正しいとはいえない内容で、俳優のジョン・ラ・メザラーやバーナード・クリビンスらがゲストとして参加した白黒映画であった。これらのイギリスのコメディ映画は、壮大なフィルムメイキングの新たな基準となった『アラビアのロレンス』のような映画から離れた世界である、土曜の午後の軽い娯楽として意図されていた。

それにも関わらず、セラーズは1963年までに成功の階段を上り詰めた。彼は一連の映画での成功に加えて、さらにBBCニュースの『ザ・グーン・ショー』におけるラジオ出演とテレビ関係の仕事を積み重ねていく。その年は、彼が映画『ピンクパンサー』にインスペクター・クルーソー役として初めて出演した年であった。また、その1年後にセラーズはスタンリー・キューブリック監督の風刺的な映画『博士の異常な愛情(略称)』で1人3役を演じた。

『新・泥棒株式会社』でセラーズは泥棒の親分パーリー・ゲイツを演じている。彼は身を隠すため、日中は人当たりの良いフランス人として高級なオートクチュール・ブティックを経営している。話の筋は飽き飽きするほどシンプルだ。オーストラリア人の窃盗団が警察に化けて、さまざまな形で巧妙な策略を用い、同業者の犯行に割り込んで盗品を持ち逃げしてしまうというものだ。この組織的な犯行に、『泥棒組合連合会』も本物の警察も混乱させられてしまう。それにより、警察と泥棒は手を組むことを決め、バタシー遊園地で落ち合い、協力して窃盗団を捕らえる計画を立てる。作中、セラーズはもう1台の所有車であるフェラーリ250GTEに乗って、バタシー遊園地に到着する。

計画に両者は合意し、パーリー・ゲイツは共犯者の警察に「私はアストンマーティンを使うつもりだ」と話す。窃盗団はおとりであるセラーズの手下の金を盗むように仕組まれる。その後、窃盗団の犯行がすべてコミカルに失敗していき、セラーズは作戦を成功させた後で、その金を盗んで逃げようとする。今度はこれを警察が追跡をし、詐欺師とともにDB4 GTを追いかけることになる。



アストンは映画の中で激しく地面に打ちつけられ、撮影中にエンジンがブローアップしたことが知られていた。その出来事について、30年前のアストンマーティン・オーナーズクラブの記録に残されていた。すべてのカーチェイスシーンが順番通り撮影されなかったようだ。幸運にも、車のエクステリアは撮影を通して無傷であった。なお、シャシーナンバー0167/R、ナンバー40MTのもう一台のDB4 GTは高速での撮影でいくつか代役を任された。

Words:Stephen Archer 訳:オクタン編集部 Photography: Alex Tapley

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