「バンク・ジョブ」メルセデスがかつて築いた記録の壁を追体験

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メッセージは間違いようがなかった。それは瞬きもせず、凝視する眼差しだけで伝わった。他の人の仕事の邪魔をするな。もちろん、私に異論はない。あれは2013年5月13日のこと、場所はドイツ北部のATP(Automotive Testing Papenburg)プルービンググラウンド、とんでもない量の書類検査を通過した後も、いくつものゲートをくぐり抜けて案内された先に待っていたのは、 私たちの目的であるディーゼルエンジン搭載のC111-IIDである。



1976年にナルドで、ほとんど160mphで1万マイル以上を走破したテストカーそのものである。すべては決められた通りに進み、私たちの番がめぐってきた。ドライバーズシートに滑り込むと、メカニックが静かにガルウィングドアを引き下ろし、パセンジャーシートに座った担当者が計器類の説明を始めた。外気温度計、インタークーラー圧力計、ギアボックス油量計、60時間時計、さらに数え切れない計器類が並ぶ。



虚ろなスターターの音が響くと、C111-II Dは966rpm(そう記されたテープがレブカウンターに貼ってあった)で不機嫌なアイドリングを始めた。ハイギアードな1速に入れ、かなり唐突なクラッチをつないで走り出し、続いて"ドッグレッグ"ギアボックスの2速に入れて加速する。レブリミットは 5100rpmと指定されていたが、勢い良く加速して本コースに合流した。不規則なビートが周囲を包み、何とも奇妙な感覚だ。



スーパーカーというよりはまるで商用車のようだった。自らを「バラスト」と言ったメルセデス・ベンツ・クラシックのゲルト・ストラウブは、まさしく忍耐の権化のように、他の邪魔をしないようにという例の呪文を唱えるだけだった。とはいえ、実際には目の前に広がる7.6マイルものアスファルトコースにいるのは今のところ私たちだけ、細いタイヤのせいかわずかにワンダリングを見せるが、直進を保つのは簡単だ。計4マイルものバンクに進入するが、ここでは第3レーン以下を走るよう指定されていた。一番上は高性能車用だが、そこでも十分すぎるほど高い場所だった。



率直に言えば、最初のラップはびくびくしながら、おそらくはいくつかの悪態もつきながら何とかこなした。パッセンジャーシートはドライバーズシートよりも高く取り付けられており、ゲルトの頭はルーフに当たっていたが、彼はまったく動じず、一言も発しなかった。その代わりに、手で合図を出してくれた。もう1周? さらに1周、と重ねるうちに私たちは216km/h(135mph)に達 していた 。バンクセクションももう怖くない。C111-II Dはまるでレールに乗っているかのように疾走していた。11ラップ目になるとゲルトの口数も多くなったが、突然会話を終えなければならなかった。2台のマイバッハ・プロトタイプが現れ、かなりのスピードで走っていたはずの我々を両側から抜いていったのだ。道を譲る時間がきたのである。


編集翻訳:高平高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words:Glen Waddington Photography:Mercedes-Benz and Steffen Jahn

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