現実を超えた先にある体験価値とは│『グランツーリスモ』考案者に聞くデジタル世界の可能性

Gran Turismo Sport:TM & © Sony Interactive Entertainment Inc.



─グランツーリスモ7については、どのような新たな提案がなされるのでしょうか。

山内 グランツーリスモ・スポーツで、かなり野心的な目論見がかたちに出来たと思っています。だからグランツーリスモ7ではスポーツで実現したチャンピオンシップなどの要素を継承しながら、1や4のようにフルボリュームの王道的な趣旨に立ち返って、現在においての最高のグランツーリスモ体験を提供するつもりです。だから昔のグランツーリスモを知っている方には、ちょっと懐かしい匂いがするんじゃないかと思います。

─そんな中で、編集部としてやはりフォーカスしたいのが「スケープス」なんです。収録されている車両と風景とを自由に組み合わせて自由なアングルで撮影し保存、公開できる機能ですね。

山内 へぇー(笑)。そんなマニアックなところに注目されるというのも面白いですね。

─というのも、写真好きな山内さんが相当拘られて搭載している機能ではないかと思うところもありまして。


山内 確かにスケープスは僕が実現してみたいと思っていたグランツーリスモのコンテンツの1つです。制作の合間を縫ってカメラと三脚を抱えてあちこち景色を撮りに行っていましたね。こういう方法でやればこういうことが出来るだろうというイメージはかねてから頭の中にあったんですが、それを実証するところまでは自分ひとりのプロジェクトでした。

インタビューにあるように「スケープス」では実際に撮影された世界各地の風景に愛車を設置、あたかもその場にあるかのような「写真撮影」を行うことができる。また、それら写真はコミュニティ内で作品として発表することができ、全世界のユーザーたちで品評し合うことができる。まさにカーライフそのものだ。

─グランツーリスモの制作チームの中には背景を担当する方もたくさんいらっしゃると思いますが、スケープスはそことは別の部門が担当することになるんですか?
 
山内 はい。プレイで出てくる景観は完全な3Dモデルを作りマテリアルを設定していく、全てCGで作り込んでいます。対してスケープスの景観は現実に存在する空間を写真で切り取ったものです。その空間の中に地面はどこで路面がここで…と、簡易的な空間情報を足していくわけです。で、その場にある光の情報を集めるために、HDR撮影で15枚くらいの段階露光を重ねています。この土台にCGの車体を合わせることで、自然な風景の中で車両撮影が楽しめるという仕組みです。

─光を撮っているというのが印象的ですが。

山内 考え方としては一枚に切り取ったようにみえる景色の中の明暗、つまり光のダイナミックレンジを全てカバーすることによって、被写体である車両のライティングを環境光で行っているということです。だから段階露光の明るい方のブラケットイメージはほぼ白飛びしていますし、暗いデータは太陽以外なにも見えないほど黒い。でもそれらの中にも情報はちゃんとあるんですね。ちなみに空間撮影は特殊な機材ではなく、ソニーのα7シリーズを使っています。

─機材は普通でも景観撮影自体は大変じゃないですか?

山内 人や物が動いていない時に活動するのが前提になりますから、時間は完全に入れ替わりますね。以前、うちのスタッフ数十人で撮影旅行に行った時は、午前零時に集合して午前9時に解散、昼間はホテルで寝るみたいなスケジューリングで動いていました。


文:渡辺敏史 Words:Toshifumi WATANABE  Gran Turismo Sport:TM & © Sony Interactive Entertainment Inc. Developed by Polyphony Digital Inc.

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